世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
途上国の視点から日本の政治を考える
(静岡県立大学)
2016.10.24
自由民主党(自民党)は,現在,総裁の任期を延長する方向で党の規則を改定して,今の総理大臣である安倍晋三総裁から適用されるという。この任期延長について興味深いのは,新興・途上国でこの動きが盛んである。例えば,アフリカでは,ブルンジは現職大統領が憲法の規定を超える3期目に入り,コンゴ共和国は2期制限撤廃の改憲を実施して,ルワンダは現職大統領が任期の長期化の改憲を行い,コンゴ(旧ザイール)も任期延長を試みている。Financial Timesなど複数の報道によると,中国の習近平国家主席も慣習となっている2期10年の任期を延長することを画策しているという。
この任期延長に関して,ロシアは3選禁止の憲法を改正せずに,プーチン氏が大統領を2期務めて,その後1期メドベージェフ氏が大統領を務めた後に,また現在,プーチン氏が大統領になり,現在に至っている。強権的な政治体制と非難されているロシアですら,決まりにできるだけ従おうとすることは,注目に値する。
日本では,現制度の枠組みで何とかしようと探っている形跡がない。例えば,自民党総裁と首相を別の人がすることは可能なのかどうかというような議論はしていないようである。現制度の枠組みでどうしても駄目なら,自民党規則の改正という手段もあり得るが,最初から党規則の改正ありきはどうかと思う。実際,安倍首相は,国会答弁で自民党総裁と首相の立場を使い分けている。
この任期延長問題から透けて見えるのは,安倍政権の一つの特徴である。それは,これまでのレビューや評価がなく,いきなり方針を転換することである。アベノミクスもこれまでの総括がなく,いきなり第2ステージへと移行したと表明した。しかし,その後,また特に何の評価もなく,現在は,金融緩和,機動的な財政政策,構造改革の従来の3本の矢を指すようである。
安倍政権がこのように説明不足である要因の一つは,現在の日本の報道機関の在り方である。国際NGO「国境なき記者団」によるランキングによると,日本の報道の自由度は低下の一途をたどっている。朝日新聞デジタル2016年4月20日付けによると,日本の順位は,2010年に11位だったが,2014年は59位,2015年は61位,2016年は72位と低下し続けている。このランキングは,各国の記者などのアンケートを基に作成されている。記者の主観が入るこむため,ランキングには注意が必要である。2016年の最新ランキングでは,南アフリカが39位なのに対して,アメリカが41位,フランスが45位である。
報道の自由度ランキングは順位そのものではなく,その変化を見るべきである。ランキングの低下していることは,安倍政権に対する報道機関の自主規制というものを反映しているのであろう。つまり,報道に関して権力のチェック機能が低下している。ここが重要である。
安倍政権の説明不足ともいえるこれまでの総括なしの方針の転換は,報道による権力のチェック機能が弱体化している証左ともいえる。もちろん,公平性は重要であるが,日本の報道機関には権力をチェックするという本来の役割を自覚して,自主規制しているなどと言われないようにしてほしい。
ちなみに,そのランキングでは,ロシア148位 コンゴ(旧ザイール)152位 ブルンジ 156位 ルワンダ161位と日本に比べて,ずっと低い。また,民主主義の程度を示すフリーダムハウス指標では,日本は政治的権利,市民の自由ともに最も高く評価されている。これらから,報道の自由度が低下しているとは言え,日本は制度としてきちんと民主主義の基盤が整備されている。繰り返しになるが,日本の報道機関はしっかりと政権を監視してほしい。
最後に,任期延長が政治のトップ本人とって望ましいか分からない。途上国の例を見ても分かるように,長期間トップに在任した人がすべて安泰であったかというとそうでもない。クーデターで国外追放されたり,経済悪化による庶民の抵抗で政権の座を降りた人たちもいる。惜しまれているうちが花であり,惜しまれているときに辞めることで今後も影響力を行使できるであろう。
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