世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
どうして日本の輸出は低迷し,ドイツの輸出は伸びるのか
((株)東レ経営研究所 シニアエコノミスト)
2016.10.17
過去10年間でほとんど増えなかった日本の輸出
2005年と2015年の国連の世界輸出統計を見ると,トップ4の輸出国の顔ぶれは変わっていない。もちろん,順位は入れ替わっており,2005年には第3位であった中国が2015年には2.3兆ドル,世界の輸出シェア14%と堂々のトップである。次いで米国(1.5兆ドル,同9.3%),ドイツ(1.3兆ドル,同8.2%)の輸出順となっている。日本の2015年の輸出額は0.6兆ドルとドイツにかなり引き離されての第4位であるが,これは2005年当時の順位と変わっていない。ただし過去10年間の日本の輸出はほとんど伸びていない。過去10年間での上位3カ国の輸出の増分を見ると,中国は1.5兆ドル,米国は6,000億ドル,ドイツは欧州景気の低迷にもかかわらず3,500億ドルがそれぞれ増えている。その一方,日本の輸出はこの10年間でほんの250億ドル程度しか増えていない状況なのである。
国際分業と現地化で日本勢の稼ぐ力は強化
もちろん日本の輸出の伸びの低迷は,製造業の輸出競争力が低下したからではない。実際,比較優位指数を製造業種別に算出すると,依然として輸送機械や一般機械等で強い競争力が確認されている。日本企業は過去10年間において輸出品の高付加価値化を推進しただけでなく,「地産地消」の立地方針のもとで低価格品の生産拠点を中心に中国など海外へのシフトを実施した。日本企業の海外生産比率は年々高まっており,直近の2014年度時点では国内全法人ベースで見ると生産活動の24%が,海外進出企業だけに限れば生産活動の38%が海外で行われている。日本企業は海外生産比率を年々高めているのである。さらに部品や材料の現地化を推進しており,日本国内からの部品や材料などの調達の割合を減らしてきている。
その結果,日本の製造業の海外で稼ぐ力は改善・向上している。例えば日本企業の海外からの特許収入は,海外への特許使用料支払を差し引いても200億ドルと米国に次いで第2位である。また日本企業の対外直接投資に基づく配当などの収益も増加しており,最近の日本の直接投資収益率は7~8%と他の先進国と比較して高い。反面,日本からの輸出は,海外に生産をシフトし,原料・材料の現地調達を進展させた分だけ抑えられている。2013年以降,アベノミクスで円安がかなり進行した割には,輸出はほとんど増えなかったが,これは日本企業の国際分業にもとづく海外生産シフトという構造変化が影響したためと言える。
ドイツの輸出増には巧みなサービス提供が関係
一方,過去10年間,日本と同じ製造・輸出大国であるドイツは輸出を増やして,その額日本の2倍となっている。輸出の内訳について国際貿易投資研究所の大木研究主幹の分析によると,ドイツは輸出単価100ドル以下の製品輸出が伸びていて,日本と比べて2倍を超える額だという。ドイツの製品はハイブランドで高価という印象とは裏腹に,輸出については低価格品がかなりの規模を占めているのだ。
またドイツ企業は国内に生産拠点を置いて低価格品を輸出しているが,それだけではない。ソフトウェアや保守メンテなど付随サービスを直接提供しながら新興国製品との差別化と顧客囲い込みを図っている。実際,産業連関表を使って日本とドイツの輸出製品の機能など本当の価値のある部分(経済学的には付加価値と言う)を取り出して業種別に見たところ,ドイツの輸出製品の付加価値に占めるビジネスサービスの割合は日本の輸出製品のそれと比べて大きいことがわかる(独:21%,日本9%,2010年版産業連関表ベース)。
こうしたドイツの製造業の海外戦略,巧みなサービス提供による顧客囲い込み,は日本が今後,新たな産業を振興して国内経済を活性化する際に参考とすべきだろう。
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