世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.733

地球温暖化対策と二国間クレジット制度:環境面での地域協力に向けて

松村敦子

(東京国際大学 教授)

2016.10.10

 この夏,オックスフォード大学,ハリス・マンチェスター・カレッジで開催された「環境問題,気候変動対策」をテーマとした学際的な国際円卓会議,オックスフォード・ラウンドテーブルに参加した。幅広い分野からの地球温暖化対策に関する報告に基づく本質的議論を通して,世界規模での気候変動対策推進とそのための国際的法的枠組みの重要性に対する認識を共有した。その意味で,9月以降の米国,中国,インド,欧州連合(EU)によるパリ協定の相次ぐ批准により11月初旬の同協定発効が確実となったことは非常に明るいニュースであり,これにより確固たる世界的環境保護体制への第一歩を踏み出すこととなる。昨年12月のパリ協定合意の際に設けられた発効要件等を主張した国のひとつとして日本は,協定ルール策定に向けた今後の議論への参加のためにも批准を急ぐ必要がある。

 パリ協定の基礎は,産業革命前からの地球の平均気温上昇を2℃より十分下方に抑えるとともに1.5℃に抑える努力を追求する長期目標についての世界的共有にあり,先進国だけでなくすべての国に対して,温暖化ガス排出削減目標の作成・維持・国内対策を義務付けており,各国は5年毎に貢献を提出し削減目標を更新する。パリ協定に途上国の削減義務が盛り込まれた背景には,国毎の状況や能力に応じた多様な参加形態が認められ,途上国の参加を引き出す仕組みが採用されていることがあり,ここで資金援助,技術支援,キャパシティ・ビルディングなど先進国の果たすべき役割は大きいと言える。

 こうした観点から日本政府は,途上国に対して環境面に配慮した経済発展に貢献するという責任を重視しつつ,これを日本の温暖化ガス削減目標の達成に活用するための二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism (JCM))を2013年に立ち上げ,先ずはアジアの先進国としてアジア太平洋地域を中心とする途上国に対して技術面と資金面での支援を進めてきた。日本の環境省によるJCMの基本概念によれば,「日本として途上国での優れた低炭素技術・製品・システム・インフラの普及や緩和活動を支援することによって持続可能な開発に貢献する一方,ここで実現した温暖化ガス排出削減・吸収への日本の貢献を定量的に評価するとともにクレジット発行によって日本の排出削減目標の達成に活用し,地球規模での温暖化ガス排出削減・吸収促進につなげるものである」とされる。

 パリ協定では,第6条2-3項における「協力的アプローチ」において,制度参加国の承認を前提として,海外で実現した排出削減・吸収量を各国の削減目標達成に活用できる旨規定されており,JCMも含めた市場メカニズムの活用が位置づけられている。日本は2013年度から現在までの間にアジアを中心とした16の途上国との間で正式にJCMを開始している。環境省では,それらの国と日本の二国間で本年5月までに合計58件の排出削減・吸収プロジェクトをJCM資金支援事業として実施しており,このうち15件が日本・ホスト国間での合同委員会に対してJCMプロジェクトとして登録されている。JCMプロジェクト登録について国別状況を見ると,モンゴル2件,ベトナム4件,インドネシア6件,パラオ3件となっている。

 こうした中,本年4月に,日本・インドネシア間のJCMで委員会登録されている2件(食品工場の冷凍倉庫・急速冷凍施設における高効率冷却装置導入による省エネルギー・プロジェクト)についてプロジェクト実施者からクレジット発行の申請が行われ,本年5月に日本政府は,JCM開始以来初となるJCMクレジットを発行した。JCMクレジット発行量については,対象となる6か月間で2件の合計として40トンとなることがJCM合同委員会において決定され,日本政府は27トンのクレジットを獲得した。今回の獲得トン数は僅かであるが,環境省では58件のプロジェクトからの削減量は年間約30万トンと見込んでおり,今後順次JCMプロジェクトとしての登録とクレジット発行に対する申請が行われる予定としている。

 11月7日からモロッコで開催される第22回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP22)においてパリ協定批准国・地域による初の締約国会議が開かれる見通しとされ,そうなれば協定第6条の市場メカニズムについても詳細が話し合われることになる。炭素市場メカニズム活用制度において懸念されているのは収支計算における二重計上等の問題であり,これを回避するための確固とした計算手法を適用するなど,JCM実施においてもパリ協定締約国会議の採択する指針に従って適切に行っていくことが求められる。

 日本の温暖化ガス排出削減目標の達成に向けて,アジアを中心とした途上国に対する技術支援・資金補助を行うことによって炭素市場メカニズムを活用するJCMは効果的といえよう。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の年内大筋合意が断念され東アジア地域での貿易自由化が停滞する中,日本としては,環境保護を伴うアジア地域の経済活性化への貢献とその活用という形での「環境面での地域協力」を推進することが重要とあると考えられる。

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