世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.695

短期海外語学研修の効果

佐竹正夫

(常磐大学国際学部 教授)

2016.08.22

 OECD等の統計に基づく文部科学省の調査によれば,日本人の海外留学者数は2004年度がピーク(82,945人)でそれ以降2011年度(57,501人)まで毎年減少している。このデータは日本の学生の「内向き」志向を示す論拠としてしばしば引用される。しかし,この資料には,交換留学などの短期留学は含まれていないといった問題があり,日本学生支援機構は国内の大学等から協定に基づいて海外の大学等へ留学した学生の調査を行い,2004年度から調査結果を公表している。それによれば,この期間ほぼ毎年日本から海外の大学等へ留学した学生数は増え続けている。2009年度からは協定に基づかずに留学した学生数も公表しているが,それを加えると,2014年度は81,219人で2009年度の36,302人から2倍以上増加している 。

 大学によっては多くの学生を送り込んでいる大学もある。例えば,2014年度に関西外国語大学や早稲田大学は1,800人以上の学生を海外の大学に派遣している。国立大学でも千葉大学,広島大学,北海道大学は500人以上の学生を派遣している。

 日本学生支援機構のデータで,もう一つ特徴的なことは,留学期間が1ヵ月未満の割合が増えていることである。2009年度は46%であったが,2014年度は60%に達している。1ヵ月未満の留学生の多くは,大学等で実施されている語学習得や異文化交流を目的とする短期海外研修プログラムへの参加者であると考えられる。

 1ヶ月未満の短期留学が増えている理由の一つとして,1991年の大学設置基準の緩和以降大学が増えたこと(大学数は90年の507校から2013年の782校に増加)が挙げられよう。筆者が勤務している常磐大学(開学は1983年)でも五つの海外研修プログラムが用意されている。米国,台湾,英国,タイ,フィリピンである。期間はいずれも2週間〜4週間で,ホームステイや協定校が提供する宿泊施設に滞在しながら,現地の言語を学ぶとともに協定校の学生と交流したり,行事に参加したり公共施設を訪問するなどの異文化体験を行う。同様の短期の海外語学研修プログラムは,地方の私立大学だけでなく短期大学や高等専門学校にも見られ,春休みなどの休暇を利用して,毎年学生を送り出している。

 多くの大学がこのような短期の海外研修を実施するのは,グローバル化の時代に対応する教育の一環と大学が考えているからであり,学生(保護者)の側にも語学力向上や異文化体験などへの期待があるのであろう。しかし,1ヵ月に満たない短期の海外研修でどれほどの効果が望めるのであろうか。

 私には未知の分野であったが,常磐大学の国際学部の教員として,米国研修(カルフォルニア大学アーバイン校で実施される「4週間の英会話と文化プログラム」)が参加学生の語学力の向上や異文化への理解または情意面での効果に関する調査に協力することになったので,特に語学面での効果について先行研究と常磐大学の結果を簡単に紹介したい。

 この分野では,地方の大学や短大または高専の短期海外研修について,その効果を検証する研究が2000年前後から行われている。それらの研究では,語学面での効果については,アンケート調査による参加者の主観的な評価(研修によって語学力は向上したと思う,など)と研修の前後にテストを行って総合点や各技能(聴解や読解,語彙,文法など)の得点差を比較したり,研修参加者と非参加者を比較したりする客観的な方法がある。

 事前事後のテストの得点差に基づく語学面での効果に関する先行研究では,五つの報告のうち,一つは有意差が確認されていないが,有意差が確認された他の四つの調査では,2週間から3,4週間の研修で,総合点で6.4%から11.9%までの伸び率が報告されている。個々の技能では,リスニングで有意差が確認されている。これは参加者の主観的な評価と一致している。また,成績下位のグループが上位グループよりも伸びていることが,いくつかの調査で報告さている。

 常磐大学の事例は,2014年度と15年度の米国研修に参加した21名の学生のデータに基づいているが,総合点では,事前事後の得点差は有意で13.7%の伸び率を示している。ただ,参加者の主観的評価ではリスニング力が特に伸びたとしているが,テストの結果ではそれは確認されていない。また,成績下位グループの伸びが上位グループよりも大きいことは確認されている。

 以上は,短期海外研修の語学力に及ぼす効果であるが,その他の効果,特に情意面への効果は定量化が難しいが,大きな効果を与えることが多くの研究で報告されている。常磐大学の場合も,学生たちが「チャレンジする勇気」「自立」「自信と積極性」「人間関係の大切さ」などを得たと感じていることが報告されている。詳細は,大津理香・佐竹正夫「短期海外語学研修はどれほどの効果があるのか-常磐大学の場合-」日本学生支援機構,ウェブマガジン『留学交流』2016年8月号を参照されたい。

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