世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.686

IT時代の企業戦略

湯澤三郎

(世界経済評論編集長)

2016.08.08

 民間消費が奮わない。背景の分析は進んでいるが,消費者の要求が多様化,高度化している状況に,供給が追い付いていないのもその一因ではないか。

 「およそのモノは足りている」うえで,何が売れるのかという課題である。IT時代の消費者は,「I want it when I want it what I want it」(欲しいモノを欲しい時に欲しい)パターンになっている(K.Yarow)。「何が欲しいかわからないけど常に探している」「見つけたら即買いたい」というわけだ。商品選択の目も厳しい。買う前にネットで経験者の評価をチェックする。企業の宣伝には懐疑的だ。

 IT時代の消費者同士はすぐにつながり,企業・商品の評判は瞬時に広がる。そのうえで「私の欲しいモノ」「私だけが選んだコレ」を求めてネット上の大航海が始まる。

 IoTやビッグデータはマスの市場から,こうした個客を指向するマーケティングへの転換を意味する。もはや大量生産品に依存した企業は,個客にとっては二の次,三の次になる。サプライヤー企業は一挙にカスタムメイドの世界に直面することになる。

 「自民党の55年体制」にも似た「企業の内なる55年体制」では,市場の変化から取り残されるのは必定だろう。「前例」「規則」「上司」「横並び」が企業の暗黙知として尊重されている企業は要注意だ。異論が異端視されて排除される企業も,内なる規制の呪縛下に有るといえよう。

 IT時代の主役は35歳以下の世代である。SNSを通じて飛び交うチャットは肩書きフリーの闊達な社会であり,従来の企業通念を押し流している。もはや組織や立場でモノを言うジャパン・スタイルは社会からは取り残される。

 「消費者は神様」とおだてた企業の裏の心を消費者は見抜いている。IT時代に企業が生き残れるかどうかは,「消費者は神様」を目に見える形で個客へ提供できるかどうかにかかっている。いわば一人ひとりの消費者にとって,「私に優しく親切な会社」になれるかどうかだ。

 この視点から企業の全てを再点検すると答えは自ずと明らかだろう。少なからずの企業は「自社だけでは対応は困難」という結論に達するに違いない。いわんや,市場は国内だけではなく,成長の機会はむしろ海外にあるとすれば,海外企業とどういう連携をとるべきかは,焦眉の急を告げる。先進国,途上国という区別で商品を提供するマーケティングも見直さざるを得ない。アメリカもモンゴルも消費者は同じ商品情報を共有しているからである。

 技術,人材,材料,資本,情報,生産・流通形態など,対応する分野は広く,深く,複雑である。我が国のメディアは海外における日系企業の動向を報じているものの,不幸にして海外市場でわが国企業の相対的な立ち位置を報じていない例が多い。IT時代のわが国企業は高い技術力を持ちながら,国際競争で遅れがちな実態が一般紙からは必ずしも見えてこない。

 日本経済の浮沈はアベノミクスの成否如何だと過度に思い込んでいないだろうか。財政の出動によって企業は世界のIT時代を勝ち抜く知見とパフォーマンスを得られるだろうか。経営者は消費がやや上向いたからといって問題の核心を見誤ってはならない。

 洋の東西を問わず,IT時代の個客への対応にこそ,企業とわが国の生き残りがかかっている。

関連記事

湯澤三郎

国際ビジネス

日本

最新のコラム