世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.656

企業にとって21世紀型メガFTAとはなにか:グローバル戦略オプションの拡大

梶浦雅己

(愛知学院大学 教授)

2016.06.20

 『世界経済評論』2016年1巻(1月・2月号)を読んだ。復刊第1号ということで「メガFTA時代の海外事業戦略」特集は5本の論文から構成されている。筆者が実行委員長となる日本貿易学会の2017年全国大会の統一論題が「メガFTAの意義——WTOとの比較において」となり興味を持った。

 まず中川淳司氏は国家レベルの通商政策について,ポストTPPの中長期的な視点から論じ,TPPルールを事実上の世界標準へとするためには,より一層のTPP加盟国の増大を図るべきであるとする。次に浦田秀次郎氏は,停滞する日本経済の構造的問題を解決する手段としてTPPなどのメガFTAが有効であることを主張する。以上両氏は国家という単位に着目するマクロな視点からの主張である。2者の主張に異議はない。

 それでは,国際経済取引を実際に行う際の具体的ルールについてはどうなのであろうかということを論じるのが3氏の論文である。福永有夏氏の論文「メガFTAが変える国際標準化」論文は通商ルールとしての国際標準に焦点を当ててFTAの影響を述べている。ⅠではメガFTAがWTO/TBT協定を強める可能性があるという仮説が示される。ⅡではWTOフレームでは,規格の調和ルールすなわち国際標準を基準にする国内規格の整合化という原則はあるものの,例外が認められていること,国際標準の明確な定義がないことから協定の限界が示される。Ⅲでは,既に数か国間でTBT協定を補完するルールの適用を開始しており,適合性評価や強制規格の策定にステークホルダーを関与させていることが示されている。ⅣではメガFTAが規格や規制を収斂させる可能性があるとする。自動車など特定分野で収斂させる強制規格と統一化するための取り組みや規格や規制の策定段階から締結国の協力を強化していく取り組みが述べられている。Ⅴでは,こうした動向はグローバル・ルール・メイキングとなりうるが,EU国際競争力が強化され,とりわけ途上国の国家主権的権限や非経済的価値の部分が損なわれる可能性を示唆している。国際標準と結びつきの強い技術特許との関連性について全く言及がないことは残念である。

 助川成也氏は,日本企業が積極的に関与しているAFTAがもたらす生産ネットワークインパクトと域内貿易の影響から導かれるメガFTAの効果について明らかにしている。ただし近年活発化する日本企業の非製造業についての掘り下げが欲しい。上之山陽子氏は,企業から見たFTA活用について,貿易国間で重複するFTAが締結されている場合に,企業にとっては最善のルールを戦略的に選択することができる可能性を指摘し,FTAの一層の活用を促すためにはHSコードや原産地証明の電子化などの標準化を進める必要があると述べている。主に関税絡みの実務戦略が述べられており,上位の全社戦略を述べて欲しい。さらに同号掲載の木村福成論文は,TPPは自由化率(関税撤廃率)が高く,例外品目が少ないという高水準のFTAとなるであろうことを指摘している。それと対比し,進展した高水準自由化率なASEAN経済共同体FTAにおいて,日本企業が「機械および輸送用機器」を取引する集約的域内生産ネットワークを構築したことを例証し,TPPは日本企業の稼ぐ力を増大させるとしている。次号以降も木村論文が連載されて掘り下げがなされている。本号への全体的感想は,非製造業,知的財産権などのトピックスが足りないということである。

 経営学寄りの筆者なりの掘り下げをすると,メガFTAは共通ルールを備えた統一市場というプラットフォームを構成することによって,市場規模を増大させる可能性を有する。一般に,事業基盤となる環境やインフラを創設して提供するのがプラットフォームであり,全体として市場を充実させることが可能になる。そのためにはプラットフォームをオープン化するかクローズド化するかという二通りのルールが考えられる。どちらを選択するのかは一概に言えないが,前者はステークホルダーが増加するにつれてコントロールが難しく,後者は,コントロールは易しいが規模が伸びないかもしれない。どちらを取るのかは難しい選択ではある。

 これまで公開されている累計FTA総数は615あるが,活動中のものは406である(浦田,2015)。日本のFTAカバー率はこれまでは低調(22.3%)であったが,交渉中のメガFTAが発効すれば,73.3%へと増大するとされる。こうした予見は日本企業のFTA戦略に確かに好機となるであろう。とりわけメガFTAとして注目されているTPPは加盟国数が多いために規模が大きく,自由化率が高くWTOプラスワンということであるので,FTAとしてオープン化を志向している。日本企業にとっては,TPP域内において具体的にどのようなグローバル戦略を講じるべきかを検討し始めているであろう。助川氏と木村氏の述べるように,製造業における集約的生産ネットワークが形成されるであろうが,非製造業分野も今後進展することは明らかである。さらにTPP域内での企業提携やM&Aは急増することは間違いないであろう。

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