世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1000
世界経済評論IMPACT No.1000

MLB(メジャーリーグ)のライセンスビジネス

梶浦雅己

(愛知学院大学 教授)

2018.01.29

 これまでにもコラムに書いた通り,知的財産権とグローバルスタンダードは密接な関係にあり,しばしば併存する。今回はサービス業についてのライセンスビジネスについて考察を行いたい。ライセンスビジネスとは,ライセンサーの商品化権の対象をライセンシーにライセンスして対価を得るビジネスであるが,商品化権は,製造業のみならずサービス業においても適用されビジネスモデルを構築することが可能である。

 周知のように我が国のGDPにおけるサービス業のシェアは,なんとか7割を超えてはいるが,米英諸国は8割を超えているに比して劣位である(経産省2016年)。問題は製造業に比べるとサービス業の生産性が低いことである。さらに我が国のGDPは540兆円(2017年名目)であるが,拡大するためにはサービス産業の生産性向上を図らなければならないといわれている。

 ところでスポーツビジネス市場はグローバル化し,それに伴い巨大化している。平田(2017)によれば,世界のスポーツ市場は2017年には2005年の約2倍になる勢いで成長している。種目としては,サッカー,野球,バスケット,フットボールなどであり,メディア,スポンサー企業,マーケティング,スタジアム,用具などを包含し,製造業とサービス業を包含する複合的産業である。

 米国の場合スポーツビジネスは成長している。並木(2012)によれば,MLBの場合,日本プロ野球(NPB)と比較すると1995年時点では,両者の収益は同程度であったものが,15年後にはNPBは変化していないのに対してMLBは6倍に成長し,2016年時点で13年連続の増収を記録している。この傾向は2017年も継続しており,ビジネス誌Forbes(2016)によれば,2016年は100億ドルに迫った。いうまでもなくMLBは野球のグローバルスタンダードと位置付けてよい存在である。MLBの収入はリーグ事業と球団事業の両者によって構成されている。野球市場成長の日米格差がどうして生じているのかは興味深い。MLBは財務内容を公表していないが,Forbesは独自に調査を毎年施して公表している。MLB全体の成長の源泉は組織化にある。ローカルとグローバルを両立する「グローカル組織」によってライセンス権をビジネスモデルとして確立したことである。

 主なMLB収益の構成はチケット,スポンサー,グッズ,スタジアム飲食,放映権収入である。これらはすべてライセンスビジネスである。30チーム球団のうち収益ランキングでは,Yankees,Dodgers,Giants,Red socks,Cubsがトップ5である。球団はローカルな本拠地でライセンス権を持つフランチャイズ制をとり自治体からスタジアム建設の無償化など様々な優遇措置を受けるほど本拠地に根付いている。一方MLBリーグは全米ひいてはグローバルなライセンスビジネスを視野にいれた組織化を進めてきた。MLB収益のうち,注目すべきはグローバルビジネスとICTに関わるものである。MLBは4つの会社を擁し,グローバル・ライセンス・ビジネスを担当するMLBインターナショナル,スポンサーと放映権を担当するMLBプロパティーズ,オンラインビジネスを担当するMLBアドバンスト・メディア,ケーブルTVを担当するMLBネットワークである。とりわけ放映権とオンラインビジネスの伸長は著しく他のスポーツビジネスにおいても両収入が経営の成否を分けることは同様である。

 以上みたようにMLBは全体としてローカルとグローバルが重複して交差するマトリックスカンパニー制を敷き成功している。

 ところで,スポーツ庁と経産省は,平成28年にGDP600兆円を達成すべくスポーツ産業成長化を審議している(「スポーツ成長産業化に向けて」スポーツ未来開拓会議)。外国のスポーツ産業が国家経済成長に連結することを指摘し,日本の現状と課題,および今後の方向性を報告している。それによれば,日本のスポーツ産業市場規模は2002年の7兆円から2012年の5.5兆円と縮小している。確かに欧米に比べてお粗末な状態であるに違いない。問題は,提案されている打開策である。スポーツ市場の拡大策としてスタジアムアリーナ建設への大規模投資を強く求めている点である。スタジアムアリーナ推進官民連携協議会を立ち上げてスタジアムアリーナを沢山造りましょうという結論で終わっている。そうすればスポーツ観戦,スポーツ用品,周辺産業の需要が拡大すると安易に結論付けている(「スポーツ未来開拓会議中間報告」平成28年)。

 確かに地域に根ざしたスポーツ振興はフランチャイズ・プロスポーツにとっても重要であるが,併存させるべきグローバル化と組織化の検討が全くされていない。MLBに見られる巧みな二重構造すなわちリーグとチームの機能別マトリックス組織構造の構築と機能化などの検討が抜け落ちているのである。

[参考文献]
  • 岡田功『メジャーリーグはなぜ儲かる』集英社
  • 並木裕太『日本プロ野球改造論』ディスカバー・トゥエンティワン
  • 平田竹男『スポーツビジネス最強の教科書 2版』東洋経済新報社
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1000.html)

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