世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.650

持続的な経済成長について考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部)

2016.06.06

 現在の経済状況に関するひとつのキーワードは,持続的な経済成長である。報道によると,G7伊勢志摩サミットの前日の5月25日の日米首脳会談では,世界経済の持続的で力強い成長の重要性で一致したという。持続的な経済成長に必要とされているのが,構造改革である。アベノミクスの第3の矢に位置づけられている構造改革に関して,これまでの政権に比べて比較的指導力があるとされる安倍政権でも,進んでいない。

 その要因として考えられるのは,2016年4月27日付け「日本経済新聞」(朝刊)で報じられているように,似たような複数の会議の存在である。日本経済の構造改革を推進する会議は,経済財政諮問会議の他に,一億総活躍国民会議,産業競争力会議,規制改革会議,民間投資を促す官民対話などがある。多数の会議があるので,当然これらの会議で扱っているテーマは重複している。同新聞によると,保健・介護士の待遇改善は,一億総活躍国民会議と経済財政諮問会議で重なっており,子育て支援や女性・高齢者雇用では一億総活躍国民会議,経済財政諮問会議,産業競争力会議で重なっている。これでは,せっかくの指導力が分散してしまう。各テーマを所管する省庁では,どの会議の意見を参考にして,改革を進めれば良いのか混乱してしまう。どの会議のいうことも細かいところはどうしても違ってしまうからである。このように改革に関する一貫性が保てないと,どれを見て実行して良いのか当事者は判断に困ってしまう。経済学で言われるところの政策の一貫性がないことが,構造改革が進まない一因であると考えられる。

 G7サミット首脳宣言にあるように,構造改革が重要であるのだが,これまでの安倍政権の経済政策や一億総活躍プランに関する報道で感じることは,当を得てないことである。それは,将来の漠然とした不安に取り組んでいるのか,ということである。

 この漠然とした不安の背景の一因が,貧困問題や格差問題である。一億総中流といわれていたのは昔のことで,現在では,貧困とくに子どもの貧困問題が深刻である。2013年の国民生活基礎調査によると,2012年の日本の相対的貧困率は16.1%,子供の貧困率は16.3%である。この数値を2014年版子ども・若者白書に掲載されているOECDの報告書のデータと比べてみると,OECD平均の相対的貧困率は11.3%で,子どもの貧困率は13.3%であり,日本はOECD平均を上回っている。さらにOECD加盟34か国のうち,相対的貧困率は29位であり,子どもの貧困率は25位である。つまり,それぞれ,貧困率が最も高い下から数えて6番目と10番目ということであり,日本は先進国のなかで深刻な状況である。

 このような現状を踏まえて,安倍政権の経済戦略を考えると,この問題に正面から取り組もうとしているとは思えない。一億総活躍プランなどから分かることは,構造改革をして,経済成長さえ達成すれば,問題は解決するという考えである。つまり,成長の恩恵が自然と貧困層にも滴り落ちるトリックルダウンという考え方である。これは,経済開発戦略で言うワシントン・コンセンサスの発想であり,この考え方は現在見直されている。

 以上から,日本で持続的な経済成長を達成するには,構造改革のみならず漠然とした不安にも正面から向き合う必要がある。格差を永続させないためには,貧困,とくに子どもの貧困問題に対処する必要がある。そのためには,財源が必要であり,場合によっては消費税の増税も考慮しなければならない。しかし,安倍政権は10%への消費増税の2年半の再延期を決定した。

 この増税再延期から暗示しているのは,現政権は,短期の経済成果を追求することに,重きを置いている,ということである。政権として意図しているのか分からないが,結果として,困難な構造改革や格差・貧困問題から逃げている印象を受ける。このまま,問題の核心に触れず,対処療法的なアベノミクス第1と第2の矢に依拠していると,そのツケは大きくなり,時間が経つにつれて,処置は難しくなっていくことを忘れてはならない。

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