世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.628

援助の政治経済学

小浜裕久

(静岡県立大学 名誉教授)

2016.04.18

 援助は外交の手段であり,援助供与国の政治経済状況にも,世界経済にも国際政治構造にも影響される。冷戦の頃のアフリカ諸国への米ソ援助競争などを見ると,経済発展も民主化もくそ食らえ,アメリカもソ連も自分の陣営になびいてくれれば独裁者だろうが何だろうが何でも援助という時代があった。ギラギラした国益のぶつかり合いだ。今も援助が「国益のぶつかり合い」であることに変わりはない。50年前のように「ギラギラ」していないだけかも知れない。中国の対アフリカ援助などは,依然ギラギラした国益が分かりやすい。現在の中東の問題の淵源が,第2次大戦時のイギリスやフランスの「二枚舌」「三枚舌」にあることは誰でも知っていることだが,彼らは平然と口をぬぐっている。

 日本の援助は1954年のコロンボプラン参加から始まったと言われるが,それは技術協力。最初の円借款はインドに対するもので1958〜60年度の3年間で180億円。船,発電・送電設備,電話設備,鋼材,トラクターなどの輸入代金に当てられる借款であった。通産省の『経済協力白書』(1959年)は「インドは東南アジアにおけるわが国資本財の最大の輸出市場であり,先進諸国も競ってクレジットの供与を行って市場の確保をはかっている。わが国も1957年頃からインドに対する資本財輸出を画期的に伸長させる具体的措置を検討していたが,わが国の資本財が先進諸国のそれと比べて国際競争力において劣る大きな理由の一つが価格の割高にきせられることにかんがみ,延べ払い条件の緩和による通常の輸出とは別に円クレジットの供与の方式が考案せられた」と,大変おおらかに,輸出拡大の手段としての円借款を高らかに歌い上げている。当時は「ひも付き援助」などということを気にする雰囲気すらなかった。

 1960年頃の日本経済は国際収支の赤字に悩まされていた。だから輸出振興に援助を使うという「国益論」はいいと思う。でも,二度の改訂で昨年2月に出された「開発協力大綱」では「国益」が登場。国民のお金を使う以上,「国益」追求は当然だが,問題は中身。世界の安定的発展に資することが「今の」国益だろう。「開発協力大綱」では憲法前文の一部が引用されているが,やはり前文にある「国際社会において名誉ある地位を占めたい」という理想はどうなってしまったのだろうか。「プリンシプルのない日本」に堕してしまったのか。「世界の真ん中で輝く国になりたい」は違うのではないか。

 2012年4月,当時のミャンマーのテイン・セイン大統領の訪日時,野田総理大臣はミャンマーの延滞債務(アリア)解消政策を発表。日本政府は37億ドルの債権放棄を表明し,日本の民間銀行団は,ミャンマーのADBと世銀のアリア返済のための短期資金を融資した。この日本の民間銀行団による短期の融資の背景に,日本政府の意志があることは間違いない。

 ミャンマーの国際資本市場復帰は,「今の日本の国益」にかなう。この政策は,1990年代初めのベトナムのアリア解消に,日本とフランスの政府・民間銀行が供与したブリッジ・ローンとよく似ている。それによって,ベトナムは国際機関からの融資を受けることが可能となり,国際経済社会に「復帰」したのである。もちろん,日本政府は,民間銀行団がブリッジ・ローン供与した事実は知っているが,政府は関与していないという建前だ。日本政府が「民間銀行の短期融資の決定に関与していない」などということを信じている専門家はいない。政策は,長期的視点に立ってネットのコスト・ベネフィットで評価すべきものだ。「ベトナムの国際経済社会への復帰」という政策実現のため,「江川の空白の一日」のようなことがあってもいい。ベトナムのアリア解消は,制度的に不透明で,よろしくないとブログに書いている自民党の政治家もいるが,筆者とは意見を異にする。

 ギリシャの改革が不十分だという議論が再燃している。純粋に経済政策論として考えればそうかも知れない。でも,そういうギリシャを虎視眈々と狙っている国が二つあることを忘れてはならない。

 昨年暮れに高校時代から仲の良かった友人が死んだ。彼は若い頃大蔵省にいて経済協力の主査や主計官をやっていた。「お前,援助で内貨分も見るべきだという意見があるけど,どう思う?」といった会話を昨日のことのように思い出す。それに対して筆者は,「途上国次第。ちゃんとした開発政策を頑張ってる国には,全額でないにしても内貨分も援助で見たらいい」と言った。

 SDGs(持続可能な開発目標)など一体いくつ目標があるか分からない。「いくつあるか分からない」と言うことは,目標がないのと同じことだ。そんなことは,いわば狂宴であって,外交官や国際NGOに任せておけばいい。国際機関の中にも「Growth with Equity」こそ開発の本義であるという所もあって,心強い。

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