世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.609
世界経済評論IMPACT No.609

世界経済に翻弄される韓国

高安雄一

(大東文化大学 教授)

2016.03.14

 韓国は1970年以降,輸出産業の育成に力を入れ輸出主導の経済構造を築き上げた。この結果,実質GDPに占める輸出の比率は,1970年の4.3%から2015年には55.6%にまで高まった。特に1990年代に入ってから比率が急速に高まり,1990年から2015年までの四半世紀で40%ポイントも高まった。

 1990年代は韓国が本格的に資本移動の自由化を進めた時期でもある。1992年から,制限はあったものの国内株式市場が外国人に開放された。また1997年末に通貨危機に直面して以降,株式市場,債券市場ともにおおむね完全に自由化された。

 経済構造の輸出主導への転換,資本の自由化は経済の追い風となり,韓国は長い期間にわたり高成長を成し遂げてきた。しかし一方で,韓国経済は世界経済に翻弄されやすい構造となった。その結果,まさに現在,韓国経済は試練を迎えている。

 韓国経済の潜在成長率は,少子・高齢化の影響もあり徐々に低下しているものの,3%台後半の水準を維持している。しかしながら,2012年以降,実質成長率は潜在成長率に届かず,2015年も2.6%にとどまった。このように,韓国経済がなかなか本格的な成長軌道に乗れない要因の一つは輸出の伸び悩みである。

 最近までは,アメリカの景気が後退すれば韓国の輸出が不調となり,反対にアメリカの景気が回復すれば韓国の景気も回復するといったパターンが当てはまっていた。もしこのパターンであれば,韓国経済は,遅くとも2014年には,輸出の回復を通じて力強い成長を遂げているはずであった。しかし中国経済の減速が輸出の足を引っ張ってしまった。

 もともと財輸出に関して,中国向けが占める比率は2000年でも輸出全体の9.7%に過ぎず,22.1%であったアメリカの半分程度であった。しかし,2005年には中国がアメリカを逆転し,2014年には,中国が21.4%,アメリカが15.6%と差が開いている。もちろん,中国向け輸出のなかには部品など,中国で完成品として組み立てられ,最終的にはアメリカで需要されているものも少なくない。しかし近年においては,付加価値ベースの輸出を見ても,中国向けの付加価値の比率が高まっており,アメリカ向けとほぼ肩を並べている。韓国の輸出にとって中国のプレゼンスが高まっているなか,これまで欧米諸国が景気減速に陥っても堅調に推移していた中国景気が減速に転じたことは,韓国経済にとって不幸であった。

 ここまで経済構造が輸出に依存していれば,世界経済から影響を受けやすいことは当然であるが,現在ではアメリカのみならず中国の動向にも左右されることとなり,ますます韓国経済は世界経済の影響を受けやすくなった。

 さらに問題な点は,外国人投資家にとって韓国は,資本を投じやすく引き揚げやすい国となっていることである。韓国は比較的安全でかつ成長率も高いため,投資するには魅力的な国である。しかし,リーマン・ショックの時が典型であるが,外国人投資家が手元流動性を高めなければならなくなると,資本規制が緩い韓国から資本を引き揚げる。規模が大きな資本流出は急激な通貨安をもたらす。韓国の外貨準備は豊富に見えるが,多くは債券などで運用しており,緊急の際に使い勝手が悪い。よって,リーマン・ショックほどではなくても,外国人投資家に資金確保の必要性が生じた場合,韓国ウォンが急落する可能性は十分にある。

 また外国人投資家の予想により資本流出が起こることもある。2016年2月にはウォン安が進んだが,これは外国人投資家が,中国経済の減速により韓国景気が冷え込むのではないかと予想して,資本を引き揚げたことなどによるものである。3月に入ってこの動きは一服したが,今後も予断を許さない状況にある。

 世界経済の減速による輸出減,資本の急激な流出に対処策がないわけではない。輸出減といった一時的な外的ショックに対する処方箋は大胆な財政政策である。財政政策は金融政策と異なり即効性が高い。輸出の落ち込みによる需要の減少を公共投資などによる需要増で埋め合わせれば,景気への影響を緩和できる。また資本の急激な流出への処方箋の一つが先進諸国との通貨スワップである。有事にドルを供給してもらえることが望ましいが,円などハードカレンシーでも効果はある。しかしながら,韓国は財政の健全性に対するこだわりがあり,大胆な財政政策には踏み切らない場合が多い。また,一時期は総額で700億ドルに達した日本との通貨スワップ取極も今はなくなっている。

 輸出依存の経済構造や資本自由化は経済の追い風になることも多い。しかし,アメリカや中国の景気後退リスク,急激な資本流出リスクに常にさらされることにもなる。現在の韓国は世界経済に翻弄されているが,リスクをコントロールしながら,輸出依存の経済構造や資本自由化によるメリットを受けるための戦略が韓国には必要なのかもしれない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article609.html)

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