世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.594

中国のサプライサイド改革と日本の経験

清川佑二

((一財)国際貿易投資研究所参与/(特非)日中産学官交流機構理事長)

2016.02.15

中国のサプライサイド問題

 今年は年初から,上海株式市場の暴落と人民元安が世界を動揺させた。きっかけは,中国の経済指標の不調とサウジ・イラン外交関係の断絶だった。2月に入って世界経済の混乱はさらに拡大している。

 経済成長が低下し始めた中国では,昨年から「サプライサイド(供給側)改革」という言葉が頻繁に出てくる。構造改革の中でも特に生産・供給者側に焦点をあてたもので,日本では3点で広く知られている。

 第1は,過剰生産能力である。特に鉄鋼については膨大な過剰生産能力があるために国内価格ばかりか海外市況も低落して世界の頭痛の種となっている。次に日本で知られているのは不動産在庫の積み上がりである。住民不在の巨大「ゴーストタウン」の集合住宅群は有名だ。第3は昨年春以来,中国人訪日客の「爆買い」で有名になった温水便座,電気釜,薬品,化粧品などの日用品である。これは多様化高級化した需要に中国企業が対応できていない供給力問題である。

「供給側改革」政策の推進

 過剰能力について中国政府は従来から対策を進めてきたが,昨年秋には習近平総書記は「総需要を適度に拡大すると同時に,『供給側の構造改革』強化に力を入れる」ことを指示した。

 12月の共産党中央経済工作会議は「供給側改革」として①生産能力の過剰を積極的かつ適切に解消する,②企業のコスト低減を支援する,③不動産在庫を解消する,④有効供給を拡大する,⑤金融リスクを防ぎ解消する,の5項目の方針と具体的措置を打ち出した。なお不動産在庫解消策の一つとして,農民工(出稼ぎ農民)が都市で住宅を購入することを推進する措置までも掲げており,問題の深刻さをうかがわせる。

 1月には李克強総理は,とくに鉄鋼・石炭産業の過剰生産能力の解消を指示した。「基準に落後した生産能力を退出させ,粗鋼生産能力を1〜1.5億トン圧縮する」ことを中心に,従業員の雇用を守ることも重視した指示だった。前向きの指示であるが,中国鉄鋼業の需給ギャップは4億トン超と言われるのに対して1.5億トン削減の指示であり,マーケットが納得しなければ世界の経済混乱は長引きかねない。ともあれ,まず何よりも総理の指示の早期完遂が期待される。

日本は供給側改革の最先端国

 日本では過剰能力について,第1次石油危機後の1978年に平電炉,合成繊維などを対象に特定不況産業安定臨時措置法(略称「特安法」,以下は略称のみを使う)が制定された。次いで第2次石油危機による基礎素材産業の過剰設備対策として,「産構法」が制定された。当時対日貿易赤字に悩む米国政府の強い要請やOECD(経済協力開発機構)の積極的産業調整(PEP)の提唱もあり,これらに配慮した内容となった。

 その後も急激な円高・地域経済悪化対策のために「円滑化法」,国内産業空洞化対策のために「事業革新法」,過剰設備・生産性低下・金融危機・競争力低下対策のために「産活法」が制定され,4回延長されつつ改革が実施されてきた。

 2013年には,安倍晋三内閣の第三の矢である「日本再興戦略」が閣議決定された。これを実行するために,過少投資・過剰規制・過当競争の解消,創業支援などのための「産業競争力強化法」が制定されて,現在に至っている。

 日本は,国際的激変などに対応するために特安法以来40年にわたり供給側改革を積み重ね,産業構造改革の膨大な知識と体験を蓄積しているのである。

日本と中国の改革の行方

 長年の改革の成果もあって,日本は現在動揺している世界のなかで相対的に安定を保っている。しかし産業実態を見ると,依然として競争力の強化が課題である。今後さらに世界は変動を続け,特に隣国中国は,自由主義とは異なる「社会主義経済制度」を憲法で標榜する世界最大の発展途上国であり,その若い経済は大きく変動を続けることが考えられる。日本は休む間もない改革を迫られている。

 中国には2020年までにGDP(国内総生産)を2010年の倍にして小康社会を完成する,「100年奮闘目標」という極めて重い政治課題がある。実現のためには7%程度の経済成長を続けなければならないことから,「供給側改革」をはじめとする改革は今後さらに強化されるものと期待される。

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