世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
グローバル経営人材育成
(早稲田大学商学学術院 准教授)
2016.02.01
このところグローバル・リーダー育成に関しての相談を受けることが多くなっています。国際展開に力を入れている企業においてトップとなる経営者はどのように選抜され育成されるのがよいのかは大学において経営幹部育成に携わる私にとっての大きな課題の一です。
課長・部長・事業部長へと昇進してゆく選抜・育成プロセスは,たいていの大手企業ではある程度整っています。しかし,全社のトップ経営者に関しては必ずしも整っていないか,見直しが必要なようです。私はよくビジネススクールの社会人学生向け,もしくは企業内の幹部研修の授業において次のような2つの質問をします。一つは「自社の将来を見据えて全社のトップリーダーに必要とされる資質・スキルはどのようなものがあるか」,もう一つは「自社ではどのような人が昇進してゆくか」です。興味深いことに,これからのトップ経営者に必要な資質・スキルと,現時点で偉くなってゆく人の資質・スキルの間に大きなギャップがあると答えるケースは少なくありません。その時には,現在のトップ経営層に必要な資質・スキルが備わっていないと言うコメントも出ていました。ビジネスを取り巻く政治・経済・社会環境が大きく変わっている中で,自社の経営戦略の将来像が描きにくくなっているのは否めませんが,将来像が見えにくいのでどのような状況にも対応できるように経営トップへの要望がさらに高くなるという循環にあるようです。
米国シンクタンクのCCLは成功した経営人材を調査し,どのような活動から学びを得たかに関して7:2:1の法則を見つけました。経営人材の学びの7割は多様な仕事の経験を通じて得るもので,上司・メンター・コーチからの学びは2割,研修・トレーニング・書物からの学びは1割というものです。実務の重要さは言うまでもないのですが,もし上記のようなギャップがあるとすれば,将来のトップに必要な資質・スキルは実務や社内の上司・メンターからどの程度学べるのでしょうか? 将来のリーダーに必要な資質・スキルと現在の組織現状にギャップがあるときは,研修・トレーニングが将来必要となる資質・スキルの方向性を提示し学んでもらい,ギャップを埋めるための希少な場になってきます。このような話は実務で経営者選抜・教育に携わっている方の多くが意識されています。
問題は必要な資質・スキルをどのように定義付けるかです。“グローバル・リーダー”は教科書的には様々な定義があるのですが,その定義をそのまま実際に適用しようとするとスーパーマンを求めるような話になってしまいます。ちょっとネットで検索しただけでもなかなか難易度の高いグローバル・リーダー要件が出てきます。例えば「英語ができ,専門性をもって,仕事ができる」ことに加えて,外国人から尊敬され信頼される,世の中の事象の表裏を理解できる,企業なり国の考えを代弁できる,大局的な素養がある等と定義づけている人もいます。こうして書くのは簡単なのですが,現在の日本企業の実態を見てみると,実際にこうした要件を備えることはかなり難易度が高いようです。ここでよく混乱するのは世界中どこでも通じるグローバル・リーダー(スーパーマン)が必要なのか,特定の地域・国・分野で活躍できるリージョナル・ローカルリーダー(多少現実的な存在)が必要なのかの峻別です。
先ほど将来像が見通しにくいのでトップリーダーへの要望がより過大になるという話をしましたが,経営人材トレーニングの中で将来ビジョンと戦略を議論し,それに基づいてどのようなリーダーがどこにどのくらいの数必要かという議論をしてもらうことで,将来のリーダー候補者が自発的に必要な資質・スキルを定義づけ,それに向けて修練をするようになるかもしれません。全社のトップに必要なリーダーの資質・スキルは何で,それを支えるリージョナルもしくは機能分野のリーダーの資質・スキルは何かを整理してみると,スーパーマンが何十人も必要なわけではないということが見えてくるかもしれません。
実際に,そうした事例はいくつも目にしてきました。ただし,そうしたプログラムに参加したリーダー候補者の全員がトップリーダーとしての自覚を持って,自発的に修練を積むようになるわけではありません。プログラム内容や課題の説明レベルが高いと,多くの参加者がある一定の学びは到達します。しかし,トップリーダーとなる覚悟がなかなか醸成されないこともあります。プログラムの説明レベルを下げて参加者が自分たちで思い悩む要素を多くすると,参加者のストレスは大きくなり必ずしも皆が同じような知見を得るわけではありませんが,そうした混沌とした思い悩みの中からトップリーダーとなる人は気づきを得,そして浮き出てくることが多いようです。
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