世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
どうなる? BRICSの反米欧路線
(杏林大学 名誉教授)
2025.08.04
BRICSを揺さぶるトランプ関税
ブラジル,ロシア,インド,中国,南アフリカなどの新興国で構成されるBRICSが7月6日,10カ国体制となって初の首脳会議をブラジルで開いた。採択された首脳宣言は反米色を抑制し,「一方的な関税措置」に深刻な懸念を表明しつつも,米国を名指しすることは避け,トランプ米政権との対立の構図を際立たせないように配慮した内容となった。
BRICSの動きを警戒するトランプ大統領は6日,BRICSのうち「反米政策に同調する国」に対して10%の追加関税を課すと表明した。加盟国の多くは米国と関税交渉の最中であるため,トランプ氏を刺激するのは決して得策ではないと判断したようだ。
BRICS拡大は「両刃の剣」
BRICSは一枚岩ではない。国際社会の分断が深刻化するなか,中国とロシアは,BRICSの拡大をテコにグローバルサウス(新興・途上国)との連携を深め,米欧に対抗する構えだ。だが,グローバルサウスには,米欧と良好な関係を保ちつつ,BRICSへの接近を図る国も少なくない。
2024~25年に新たに加盟した5カ国のうち,反米欧的な外交姿勢を強めるイランを除き,エジプト,エチオピア,アラブ首長国連邦(UAE),インドネシアはいずれも,中露とは一線を画す「IBSA」(インド,ブラジル,南アフリカの3カ国)と同様,BRICSに反米欧のレッテルが張られるのを嫌っている。中露だけでなく,米欧とも経済や安全保障の面で連携する「バランス外交」を展開しているからだ。
「米欧への対抗軸」を強化するのか,それとも「米欧との共存」を図るのか。BRICSにおける路線の違い,言い換えれば,米欧との距離感の違いが,トランプ関税による揺さぶりで,鮮明になった。BRICS拡大が同床異夢の様相を強め,「両刃の剣」となっている。
BRICSの反米欧路線は曲がり角
米欧との関係を重視する議長国ブラジルのルラ大統領は,「BRICSは誰かと敵対するために生まれたのではない」と述べ,今回のBRICS首脳会議では「中露首脳の不在」に乗じて,BRICSと米欧との関係を,「対抗」ではなく「共存」への路線変更を狙った。
来年の議長国を引き継ぐのは,グローバルサウスの盟主を自任するインド。インドも米欧との連携を模索し,BRICSを「反米欧」の枠組みにすることに反対だ。モディ首相は「議長国としてBRICSの再定義に取り組む」との声明を出した。中露の思惑とは裏腹に,BRICSの反米欧路線はまさに曲がり角にある。
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