世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプ大統領でも米国に投資チャンス
(国際貿易投資研究所 客員研究員)
2025.01.13
投資環境ランキング
対米国投資は,トランプ大統領の再選により大変化が予想される。投資環境には,有望理由があり,また課題があるが,米国の①ビジネス環境ランキング,②国際競争力ランキング,③IT競争力の3点からG7の首位にあることは変わらない。
米国の①ビジネス環境ランキングは,G7の中で首位である(注1)。②国際競争力ランキングでもG7で2位。また,③IT競争ランキングでは世界1位である(注2)。
日系企業の対米国投資が有望な理由は,「産業集積」である。他方,課題は,「高インフレ,高賃金,人材確保難」である。日系企業に必要とされる対策は,「賃上げ,雇用条件の改善,人材育成」と言えよう。
結論として,「米国をグローバルサプライチェーンに組み入れる」ことは避けられない。
1.「ビジネス環境ランキング」
世界銀行の「ビジネス環境ランキング」の全体の項目の総合指数によれば,米国は2019年に6位でった。それでも米国はG7の中では最上位にランクされる(1位からニュージ―ランド,シンガポール,香港,デンマーク,韓国)。一方,日本は29位,中国は31位,インドは63位である。
「ビジネス環境ランキング」の項目のうち,米国は「破綻処理」が2位であり「資金調達環境」が4位である。その他の項目で20位以内のものは,「契約執行状況」が17位である。日本は,「破綻処理」が3位,「電力事情」が14位,「建設許可取得の容易性」が18位である。中国は「契約執行状況」が5位である。また「電力事情」が12位である。インドは「納税環境」が13位である。
米国の「ビジネス環境ランキング」には2010年には3位であったが,2011年に4位,2014年に6位,2016年(当時オバマ大統領)に8位とランクダウンした。2017年から2020年までは6位であった。これ以降に世界銀行は同ランキングの発表を中止したが,EIU(注3)の推計によれば,2023年の米国は4位で(1位から3位まではシンガポール,デンマーク,カナダ),米国のビジネス環境は,継続して高いランキングを維持し,更に近年は好転している。
他に,2023年のランキングには注目される大きな変化があった。中国が31位から11ランクを落とし44位となり,インドが63位から6ランク上がり53位となった。
2.「国際競争力ランキング」
世界経済フォーラムによる「国際競争力ランキング」は,12の主要分野(社会制度,インフラ,ICTの採用・普及,マクロ経済の安定性,健康,スキル,商品市場,労働市場,金融システム,市場規模,ビジネス活力,技術革新力)について98項目の各種指標から構成される。そのランキングに関して,2019年に米国は2位,日本が6位であった。他方,中国は28位,インドは68位である。
同ランキングの2006年に1位であった米国は2012年に7位とランクダウンした。その後2018年に再び1位となり,上述のとおり2019年に2位となった。なお,1位はシンガポールである。2023年に調査方法が変更され米国は12位となるが,11位まではシンガポール,スイス等の小国で米国はG7では首位である。
3.「IT競争力ランキング」
また,世界経済フォーラムによる「IT競争力」(The Networked Readiness Index(NRI))によれば,米国が1位,日本13位,中国20位,インド60位となっている。
「IT競争力ランキング」は,技術,国民,ガバナンス,影響に関して評価する。米国は,2009年に3位であったが,2013年に9位となった。その後2021年から好転し,2022年に1位となった。
なお,「インターネット自由度」(米国・人権団体,Freedom House)について,アクセス規制,コンテンツ規制,ユーザー権利侵害の3点からの評価では,日本7位,米国9位,インド41位,中国70位となる。他方「インターネットユーザー数」(国連専門機関・International Telecommunication Union)については,各国の人口が大きく影響し,中国1位,インド2位,米国3位,日本7位となっている。
4.米国の直接投資と貿易
2023年の米国からの対外直接投資残高の構成比は,欧州59.2%,アジア太平洋16.1%,中南米16%であり,2018年からほとんど変動がない。
貿易に関して,米国の輸出が増大している国・地域の構成比は,2023年に欧州21.9%,メキシコ16%,インド2%である。減少している国・地域は,カナダ17.6%,ブラジル2.2%,日本も3.8%減少している。
米国の輸入が増大している国・地域の構成比は,欧州20.8%,インド2.7%,メキシコ15.4%,シンガポール1.3%で,減少は,中国13.9%,アフリカ1.3%,日本が4.8%である。
5.トランプ大統領による混乱が生む投資チャンス
米国への対内直接投資の構成比は,2023年に日本の占有率が12%で,かつ日本の構成比が2010年以降で変わっていない。トランプ大統領の再登場でも変わらないことが予想される。
先端半導体をブームとした日本経済活性化は,第1次トランプ政権時の中国叩きが一因で生まれた。米国の投資環境を考慮すると,第2次トランプ政権による混乱は絶好のチャンスを生む機会となりうるだろう。
[注]
- (1)https://www.globalnote.jp/category/9/42/46/(2024年11月15日アクセス)。
- (2)世界経済評論インパクトNo.3472
- (3)英国The Economist調査部門,Economist Intelligence Unit。
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