世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
柏崎刈羽の現場では再稼働の準備が整っている
(国際大学 学長)
2025.01.13
2024年9月,久しぶりに東京電力ホールディングスの柏崎刈羽原子力発電所(以下,「柏崎刈羽」と表記)を見学する機会があった。
最新鋭の改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)であり出力も大きい柏崎刈羽の6・7号機(発電出力はいずれも135万6000kW)については,原子力規制委員会が17年12月に新規制基準に適合しているとの決定を下し,20年10月には保安規定を認可した。しかし,その後,東京電力の核物質防護対策の不備が発覚したため,21年4月に原子力規制委員会は,柏崎刈羽6・7号機の再稼働への許可を,事実上凍結するにいたった。この凍結措置は,23年12月に解除された。つまり,柏崎刈羽6・7号機は,地元了解さえとれれば,すぐにでも再稼働できる状況にある。
見学当時,柏崎刈羽では,稲垣武之所長の方針で,再稼働を実現する前提条件として,①核物質防護事案の各改善措置項目の効果が十分に発揮できていること,②安全対策工事の完遂と,主要設備の機能が十分に発揮できること,③緊急時等の対応能力が十分であること,④発電所で働く全ての人々が円滑にコミュニケーションを図っていること,という四つの課題を掲げ,それらに取り組んでいた。このうち①については,東京電力ホールディングスの社長自身が,常時,柏崎刈羽の現場をモニタリングできるシステムが作動していた点が,印象的であった。また,④に関しては,稲垣所長自らが,毎朝6時には発電所正門のゲート前に立って,車で通勤してくる協力会社を含むすべての従業員に対して,挨拶の声かけを行っていると聞いて,正直驚いた。この「声かけの辻立ちの輪」は,その後,他の発電所幹部や協力会社トップにまで広がっていったそうだ。
②については,防潮堤・水密扉・取水槽閉止板補強・止水工事・貯溜堰等の津波対策,空冷式ガスタービン発電車・電源車・直流電源増設等の電源対策,高圧代替注水系・消防車・大容量送水車・代替熱交換器車・淡水貯水池等の注水・除熱対策,水素処理設備・ブローアウトパネル閉止装置・フィルタベントとヨウ素フィルタ等の万が一の事故に備えた影響緩和対策などに取り組んでいた。構内を一巡するバス見学や,7号機内部での徒歩見学を通じて,これらの諸施設の大半を視認することができた。とくに,7号機屋上で間近から見たブローアウトパネル閉止装置や,そこから見下ろしたフィルタベントは,迫力満点であった。
また,③に関しては,放水砲と大容量送水車による放水訓練を,目の当たりにした。勢いよく放出された大量の水が,巨大な弧を描きながら,貯水池に吸い込まれていった。柏崎刈羽では,福島第一発電所事故から24年5月末までのあいだに,この種の個別訓練は3万回以上,過酷事故を想定した総合訓練は170回以上実施されたと聞いた。
一般的に言って,原子炉は,新しい設計であればあるほど,危険性が低下する。その意味で,最新鋭のABWRである柏崎刈羽6・7号機は,日本に現存する原子炉のなかで危険性が最も低い部類に属する。また,柏崎刈羽6・7号機の出力の大きさは,慢性化しつつある電力不足の解消に資する点で,魅力的である。今回の見学を通じて,現場では,再稼働へ向けての体制がすでに整っていると感じた。再稼働が待たれる。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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