世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
東京ガスのメタネーション技術開発が進化している:横浜テクノステーションを再訪して
(国際大学 学長)
2025.04.07
2024年の12月,東京ガスの横浜テクノステーション(横浜市鶴見区)を見学する機会を得た。同地で合成メタンを生成するメタネーションの実証試験が始まった直後の22年3月に訪れて以来,2年9ヵ月ぶりの再訪である。
再訪して驚いたのは,その間に東京ガスのメタネーションに関する取組みが,目に見える形で進化していたことである。その進化は,多方面にわたる。
第1に,既存のサバティエ反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)を使わない,革新的メタネーションの開発が着実に進展していた。革新的メタネーションとは,電気化学反応によるメタネーションであり,原料が水と二酸化炭素(CO2)である点に特徴がある。つまり,外部水素の調達を必要としないメタネーションなのであり,この点は,画期的な意味をもつ。と言うのは,合成メタンを含む合成燃料の泣き所は,原料であるグリーン水素(生産時にCO2を排出しない水素)のコストが高くつく点にあるからだ。水素調達が不要な革新的メタネーションは,この難点を解消するのである。
東京ガスは,革新的メタネーションに関して,電気化学デバイスと低温抗活性のメタネーション触媒を用いたリアクタを直接組み合わせ,効率性にすぐれるハイブリッド・サバティエ,および電気化学デバイスのみを使い設備コストを大幅に低減するPEM(固体高分子膜)CO2還元という,二つの方式で技術開発を進めている。今回の見学では,このうちハイブリッド・サバティエの開発が大幅に進展していることが確認できた。
ハイブリッド・サバティエ方式は,水電解と低温サバティエ反応を連携させるメタネーションである。反応式は,4H2O+CO2→CH4+2H2O+2O2となる。サバティエ部分は220℃以下の低温反応であり,排熱を有効利用してさらなる高効率化を図っている。将来的に目標とする総合効率は,80%超である。水電解に必要なセルの開発,メタン合成触媒の耐久性・反応制御の向上などが課題であるが,今回の訪問時に受けた説明によれば,効率・熱マネジメント・実現時期などの面で大きな進展があり,装置コストや大容量化などの面でも着実な進展があった,とのことであった。
横浜テクノステーションの一角には,二つのガスコンロが並べられ,通常の都市ガスによる炎とサバティエ方式の装置から生成された合成メタンによる炎が,仲良く青い光を放っていた。素人目には,両者は,まったく違いがないように見えた。
第2の進化は,横浜テクノステーション内のサバティエ方式によるメタネーション装置と,近隣に立地する横浜市の資源環境局鶴見工場(ゴミ焼却工場)および下水道河川局北部下水道センターとの連携が,実現をみたことである。毎時12.5N㎥(N㎥はノルマルリューべ。圧力・温度・湿度が基準状態にある空気量)の合成メタンを製造するメタネーション装置には,鶴見工場でゴミ焼却の排ガスから分離したCO2と,北部下水道センターで生じた消化ガス(下水汚泥を処理する過程で発生するバイオガス)とが,供給されている。また,メタネーション装置の隣で稼働する水素生成用の水電解装置には,北部下水道センターから再生水(下水処理したうえでろ過した水)が,送られている。これらは東京ガスと横浜市が22年1月に締結したメタネーションに関する連携協定を実行に移したものであるが,このうちの23年7月に始めた「ゴミ焼却工場からのCO2回収とメタネーションへの利用実証」に関しては,横浜市と東京ガスのほかに,三菱重工業と三菱重工環境・化学エンジニアリングも事業主体に加わっている。
今回の訪問では,横浜市資源環境局鶴見工場のCO2分離回収・搬出現場を見学した。同工場は,巨大な清掃炉を3基擁する大規模なゴミ焼却工場であるが,その排ガスの一部からCO2を分離し,それをローリーで,東京ガス・横浜テクノステーション内のメタネーション関連施設へ運んでいる。CO2の回収能力は150N㎥/日で,回収純度は99.9%以上であり,ローリーは週に4回のペースで運行されているそうだ。
第3の進化は,横浜テクノステーション内のメタネーション関連施設それ自体が,著しく拡充されたことである。前回の訪問時には,金属の枠組みと配管が目立つ2階建て屋上付きの構造物であるメタネーション装置がポツンと屹立している印象であったが,今回は周辺にさまざまな装置が設置されたため,それらに囲まれて,あまり目立たない状態になっていた。
新設された装置の代表格は,毎時335N㎥の水素を作ることができる大型の水電解装置だ。これは,24年3月に東京ガスが住友商事と協力して設置したものであり,イギリスのITM Power PLC社製のメガワット級の固体高分子型水電解装置である。
同装置で使う再生可能エネルギー由来の電気を確保するため,東京ガスは,横浜テクノステーション内に,太陽光発電装置も増設した。その出力は,800kWである。
このように,2年9ヵ月のあいだに,東京ガス・横浜テクノステーションでのメタネーションの技術開発は,サバティエ方式についても革新的メタネーションについても,顕著な進化を遂げていた。前回の見学時に本欄に寄せた訪問記のなかで筆者は,人類として初めて月面に足跡を記したニール・アームストロングの言葉を引用して「小さな一歩だが,大きな飛躍につながる」と書いた(『世界経済評論IMPACT』No.2562,2022年6月6日発信)が,その時の期待は,今は確信に変わりつつある。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
- 分 野 :科学技術
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