世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
衆議院選挙について,在る高齢者の独り言
(関西学院大学 フェロー)
2024.11.04
令和6年10月の首記選挙で,これまでの自公連立で与党を形成する体制が崩れ去った。衆議院第一党の自民党と第二党の立憲民主党は,己が責任政党であると自負する限り,否応なく,それぞれに新たな政党間連立の可能性を模索する競争に,身を挺せざるを得なくなっている。勿論,その必要性は,「政権交代こそ政治改革の近道」と主張してきた立憲の野田さんの方が,より切実であろうが…。
「それにしても…」と,筆者の様な高齢老人は首を捻る。「何故,石破さんは,そうすればこうなる可能性も大きいことを分かっていながら,そんなことをしてしまったのだろうか」と…。自身がこれまで党内反主流で,味方が少なく,基盤も弱いことぐらい,先刻承知のはず。だから,総裁になる以前に唱えていたことが,総裁になったからといって,そうすんなり党内で通るとは思っていなかったはず。逆に言えば,その危惧が強かったからこそ,早めの選挙実施で党内基盤を強めたかったのだろう。だが,今回のような結果を招来する大きなリスクも亦,当然に見えていただろうに…。
そう考えると,総裁になった瞬間から,「俺は今日から,山科に蟄居した大石内蔵助になる」と腹を決める手もあったのではないか…。宿敵吉良を討つためには,ある程度の準備時間が必要だったし,亦,権力というものは,一定期間握り続け,その間に時には強権を発動し,その威力を組織内に行き渡らせる。そして確立したその力を持ってこそ,一定の政策成果も挙げ得るもの。石破さんも,そうした手順を踏んだ上で,実績を挙げ,それを外部に問えば良かったものを。手間をかけずにいきなり関ヶ原の大会戦への途を歩んでしまった。要は,「焦って総選挙など実施する必然性はなかったのではないか」と…。
もっと辛辣にいえば,「1週間後に,アメリカで大統領選挙があり,“もしトラ”に備えて世界中が構えているのに,そんな時に,新総裁の新鮮感が喪われないうちに選挙に打って出ようとした…。それは余りに国内しか観ていない,地方政治家的やり方ではなかったか」。また「国際情勢不安の最中,何も急いで,日本に政情不安を産み出すかもしれない,そんな不確実性リスクを,このタイミングで冒す必要が本当にあったのだろうか」と…。
そう考えると,総裁選に出馬を決めながら,それに先だって,アジア版NATO構想を米国の保守系シンク・タンクの発表媒体に投稿する必要性が何処にあったのか,も疑問に思えてきた。そんなアイディアを出せば,“もしトラ”が実現した場合には,トランプに絶好の対日交渉材料を与えることになる可能性を案じなかったのだろうか…。「期を見るに敏」なのは良いが,その感受性は,国の内外を俯瞰したものでなければならないのに…。
日本の議会制度では,選挙の投票日から30日以内に議会で新しい総理を選ばねばならないとのこと。そうだとすると,ここ数日で,先ずは野田さんが,各野党を説得して,大まかな政策枠組みでの合意を取り付けることが出来るかどうか,その合意取り付けに向けた熱意と熟練技が問われることになるだろう。野田さんは,選挙で立憲を大躍進させた今が,党内基盤や党外への影響力の最も強い時期。この時期に,自らが手中にした政治資産を使わない手はないではないか…。
そして,野田主導で,一度,そうした方向に向けての野党間の姿勢の一致が仮に見られるようになれば,あとはこれ全て交渉の世界。そう考えると,日本維新の会も,国民民主党も,その他の党も皆,現段階ではいずれも,立憲のお手並み拝見の姿勢を決め込んでいるのは当然のこと。
では,野田さんはどうすれば良いのか…。
豊臣秀吉亡き後,豊家恩顧の大名たちを手懐け,分裂させ,大義名分を創って,彼らの一部を上杉討伐に連れ出して,最終的には彼らを手中の駒の如く操った,大戦略家徳川家康を真似れば良い。家康に謀臣本多正信がいた如く,野田さんにもそんな参謀役が1人や2人はいるに違いない。
その打ち出すべき方向は…。
先ずは大きな柱を数本打ち立てる。
その柱候補は,野田さん好みの,“細った中間層の回復”が一つ。昨今の闇バイトの流行や独居の高齢者宅を狙った押し込み強盗などを念頭に,社会全般が漠然と感じている“社会の安心・安全の回復”が二つ。或は,“老々介護の増加などを念頭に,人生100年時代の安心を模索する”が三つ等々。要は,有権者一般が今,不安に思っている諸々を,抽出すれば良い。
そうした柱を数本打ち出した上で,それらの柱の範疇の下,各野党が選挙期間中に,スローガン的に打ち出していた主張を実現させるための,代表的施策を具体的に1本ずつ盛り込ませる。例えば国民民主の『手取りを増やす具体策』,維新の会が唱えていた『教育の無償化を象徴する具体策』,更には,どの党も唱えていないが,『闇バイト禁止のための具体策』等々。
譬えれば,そうした,緩い,象徴的な具体策の実現を先ずは目指し,来年の半ばぐらいまでに,それらの立法化を実現する。そして,それらの各党間の協調関係構築を進めながら,同時に,来年夏の参議院議員選挙に向けた,候補者一本化を試みる…。せめて,こういったグランド戦略の必要性ぐらいは,公表するかしないかは別にして,各野党の間でコンセンサス造りを進めても良いではないだろうか…。
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