世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
中間選挙の年を迎えるトランプ政権:強まる向い風,失われる浮揚力
(関西学院大学 フェロー)
2026.01.12
昨年1月,トランプ候補が4年ぶりに大統領職に復帰した。トランプ候補は,2020年大統領選挙の敗北が「バイデン候補に票を盗まれたため」との強弁を蒸し返し,当時,漸く静まりつつあった「支持者を扇動し連邦議会を占拠させ“民主主義を覆そうとした前大統領”」との思いを再度有権者に持たせてしまう。更には,選挙期間中に女性問題や選挙資金規制法違反を巡る裁判案件をも抱え,“民主主義の敵”,“女性の敵”と名指され,一部敗訴までする。通常なら,これほどの苦境に立たされれば,精神的に参る筈だが,トランプはそうはならなかった。人並み以上に強い自己顕示欲,且つ,懲罰好き“retribution”で,しかも攻める相手には攻撃的になり,加えて,アルコール中毒症的な性格を持つ(alcoholic’s personality)トランプは,意気消沈どころから逆に攻撃的になっていった。こうしたトランプの性格付けは,首席補佐官Susie Wiles女史のVanity Fairs誌へのインタビューなどを基にした,NYTのPeter Baker記者の記事“Trump’s Top Aide Acknowledges ‘Score setting’ Behind Prosecutions”,からの抜粋だが,Web掲載された記事タイトルは最終版では“Shouting(怒鳴り),Ranting(わめき),Insulting(侮蔑する):Trump’s Uninhibited Second Term”へとタイトルが変えられている(NYT2025年12月16日,同12月18日等)。Baker記者は,Wiles女史がVance副大統領を長年にわたってのconspiracy Theoristと決めつけ,Vought行政管理予算局長をright wing absolute zealot(熱狂者)と呼び,司法長官のPam Bondi女史をCompletely whiffed(軽量級)と評した,と記している。そうしたトランプ取り巻きへの評価に立脚して,Wiles女史は,そんな周囲に取り囲まれている大統領を,時には励まし,勇気づけるのが自分の仕事だ,と語ったわけだ。この記事を読んだ筆者は,「現大統領の周辺は,太陽神トランプを取り囲む,胸に一物ある諂い者ばかり。トランプの意向が閣内で絶対的力を持ち,その意向から外れると,あっと言う間に太陽圏外に放り出される。故に,周りは唯,大統領の意向に従うのみ。だから,この政権が打ち出す政策には,内部チェックが効かず,今後も色々と問題が出てきそうだ」との感触を強めた。
まるでテレビのSHOWのProducerのように…
話を本筋に戻そう。トランプ候補は上述のような負のイメージを持つにもかかわらず,民主党支持基盤だった“失われた人々”を自己の岩盤支持層化し,America Firstの過激な言動,更には,共和党内の,若手の右派を相手とするには,自分の論理の一方性と若年層有権者へのアピール力でどうしても劣ってしまう,故に共和党内での候補者討論会を全て回避する前代未聞の選挙戦術を駆使して,謂わば,彼にしか取り得ない独特の選挙戦を展開し続けた。こうした,当初からバイデンに的を絞った選挙戦に特化したのには,トランプなりの計算があったため。何よりも,彼が人目につくことを好んでいること。つまり,自分を主役にしたテレビの番組を制作している気持になっていたことだ。
そして,このような定石を破る手法そのものが,“社会の底辺で不満を託つ嘗ての中産階級,転じて今はその席からずり落ちそうになっている,非大卒の白人労働者たち”に拍手喝采させる原動力となった。大統領選挙でトランプが勝てたのは,この非大卒白人労働者の支持を固めたのと,ヒスパニック票の一部を獲得出来たためだった。
共和党内の独裁者から米国社会の専制君主へ
正式に共和党候補になって以降,トランプは党内の選挙対策ポストを身内で固め,選挙資金も一手に握り共和党内を完全掌握して行った。
これは,第一期政権発足初期にホワイトハウスや党組織内で,大統領たる自分が,既存の党内エリート達に攻囲され,孤立した苦い経験があったからだ。だから,2018年の中間選挙を機に,穏健派の党内実力者たちを,徐々に排斥して行く。かくして,2期目の政権では,トランプ流党内浄化は頂点に達し,トランプが何を言い,どう行動しようと,共和党内からは,そうした動きを抑止しようとする意志は表明されなくなっている。トランプは強権と報復で,共和党内の独裁者になったのだ。そして議会多数派党内の独裁者たる地位と相まって,米国社会の専制君主と化して行く。その結果として,連邦議会の上下両院とも共和党が多数を占め,加えて,連邦最高裁判所も共和党指名判事が多数を占め,為に,トランプが「大統領権限」を根拠に,多種多様な独善的決定を行っても,立法府や司法府が即時に抑制する三権分立のチェック機能は今のところ働いていない。当初,昨年12月中に出されると想定されていた米国国際貿易裁判所の“関税違憲判決”への上訴審たる連邦最高裁の判断は,結局,年内には出されなかった。判断が遅れているという事実は,新規の税(関税を含む)賦課は本来,立法府の仕事,それをトランプは大統領権限を盾に行政権の行使で押し切った。そうした論理・既成事実化への最高裁の可否判断が,今,最終審判事たちの間で分かれてしまっている,或いは,少なくとも,即断合意出来る状態ではないのではないか…。
いずれにせよ,再度大統領に選出されたトランプは,“失われた人々”層に加えて,“金満層”をも,仮想通貨の承認や天然ガス試掘の再開,或いは,大幅な減税提唱・実現などで自己薬籠中のものとし,大統領権限行使の大義名分で,ある種の専制を実行し始めている。例えば,不法移民の本国,或いは近隣の中南米諸国への送還。不法移民容疑の拘束者を海外の米軍基地に設けた監獄に収監。更には,現時点では一応の決着を見たが,米国の有名大学を軒並みターゲットにした連邦補助金の供与停止。外国人留学生や海外技術者向けのビザの発給縮小。デモなど,トランプ政権への抗議意思への,州兵を動員しての抑圧。連邦議会での社会保障関連予算の大幅削減。減税措置の恒久化。前バイデン政権が着手していた,各種グリーン・イニシアティブの撤回。極め付きともいうべき,主要貿易相手国向けの相互関税賦課。各種連邦政府機関の幹部の首切り(直近では,一挙に,且つ理由も明かさず,30名近くの国務省のキャリア大使の任を解いた)。予算欠如で連邦の各種行政機関が閉鎖された時でさえ,その閉鎖を予算削減の手段として使った。更に,麻薬輸入阻止を名目に軍を使ってのベネズエラの貨物船への空爆等など。
強まる向い風,弱まる政権浮揚力
2025年1月央の各種世論調査では,大統領への支持率は平均51.6%,不支持率は40%であった。支持率が約12%も不支持を上回り,出だしは極めて快調だった。
ところが12月央になると,支持率の平均は42.1%に下がり,対して不支持率は54.3%に上昇している。では,この変化は一体どのような時期に起こったのか…。
先ずトランプ大統領が全世界向けに,相互関税賦課を実施した4月の各種世論調査を時系列で見ると,この時期を境に以後,不支持率が支持率を上回り続けるようになる。
何故か…。全世界を驚かせた相互関税は,米国内の一部有権者をも驚かせた。その驚いた有権者(無党派層でバイデンを嫌い,トランプに投票した白人の大卒者が多いとされる)が,それまでの常識に大いに反する政策をトランプが実際に遂行し始めたのを見て,大統領に対し,一歩,身を引いたのだ。
もう一つの変化は10月に見て取れる。先ず10月1日~11月12日の間まで,連邦政府予算の手当てがつかず,行政府が閉鎖されたこと,さらに,この閉鎖中,大統領はこれを好機と見做し,各種連邦プロジェクトを軒並み停止させた。有権者は,日々の生活に直結する行政サービスの重要性を大統領が余りにも軽んじている,と見做しトランプに一層の反感を持つようになった。加えて,10月18日,全米2700か所で700万人が参加するトランプの専制君主的行動に抗議する“No Kings”ralliesが開催された。ジョンソン下院議長は,民主主義の尊守を主張する,極めて穏やかに終わったラリーを”anti-American”と決めつけた。このような議会共和党指導者の反応こそが,共和党が如何にトランプに取り込まれているか証明したようなものと言えよう。
こうした中,11月4日,東海岸の2州(ニュージャージーとバージニア)で知事選が,またニューヨークでは市長選が行われ,いずれも民主党の候補が勝利を収めた。
これら3地域はいずれも民主党の基盤故,ここで民主党が負ければ大きなニュースだが,負けたのは共和党側。しかし,リベラル・メディアは鬼の首を取ったが如く,「トランプの政策が自身の生活に悪影響を及ぼし始めた」と有権者が感じているが故の結果だと,大きく取り上げた。尤も,リベラル・メディアが指摘する構図は,今年に入ってから全米で行われた一連の下院議員補欠選挙の結果に,既に現れていた。例えば,2025年に入り,現職の死去や辞任などで空席になった連邦下院の選挙区は5つあるが,それら5つの補欠選挙では,いずれも民主党候補者の得票率に比べ,民主党候補が得た得票率の伸びが軒並み上昇しているからだ。
こうした世論状況を見て,リベラル色の濃い,ワシントンのBrookings InstituteのWilliam Gaiston研究員はそのコメンタリーで,”As President Trump loses support, Republican prospect in the 2026 midterms grow darker”と結論づけている(2025年12月4日)
鮮明になった,民主党の反トランプ・レトリック,It’s Affordability Stupid
バージニア州知事選等の結果が出るまで,民主党は2026年11月の中間選挙で,“如何なる選挙戦を展開すべきか”,明確な争点を定め得ていなかったように見える。
相互関税導入や社会保障予算の圧縮などで,「米国経済はインフレ下での不況に襲われ,人々の生活にも大きな影響が出るだろう」との正統派エコノミストの予想は当面外れ,民主党としてトランプ大統領を批判する決め手を,これまでは見つけられずにいたからだ。そんな中,1992年の大統領選挙で挑戦者・民主党クリントン候補を当選させた選挙参謀James Cavilleなどは,「民主党は当面,トランプに“遣りたいことを“遣りたいだけ”やらせろ」と主張。“遣り過ぎの後遺症”が出るまで事態を静観するのが得策だと,独自の意見を吐く程だった。
いずれにせよ,そうした好・不況どちらともとれる経済指標が混在する中,11月4日の東部2州知事選とニューヨーク市長選で民主党各候補が大勝した。選挙関係者は,その勝因が“有権者の将来への不安”との見方で一致するに至る。だから,この好機に,民主党側は一斉に,そうした認識に立脚しての,トランプ並びに共和党批判を強め始めたのだが,その際に使われた反撃用のKey Wordが“Affordability” つまり「余裕のある生活」と訳されようか。「好・不況」や「Economy」という直截な言葉の代わるKey Wordが“Affordability”であれば,回答者の所得階層に関わらず,自分が不安に思えば,affordabilityが低いということになる。つまり答えは,主観で決まる。民主党がこの言葉を振りかざせば振りかざすほど,社会は言葉のニュアンスに左右され,一種の暗示効果も期待できる。更に,この言葉には,政治的含意も込められている。それは共和党が,来年までのつなぎ予算を,民主党の反対を押し切って議会採択したとき,Medicaidやその他社会福祉関連項目の一部の継続を認めなかった(Affordable Care Actが年末に失効する)からだ。その意味で,共和党が人々の“Affordable”な生活を享受する権利をむしり取った,そんなイメージを,民主党としては,この言葉を使って,共和党側に塗りたくりたいのだ。
民主党のトランプ共和党批判,それへの共和党側の反撃戦略は?
経済統計が表面に示す数字より,実際にはもっと苦しんでいる層がいることはトランプ大統領も当然に承知している。つまり現在の米国経済は,GDP成長と雇用状況が連動しない「分かりにくい」状態にある。大企業はAIによる効率化を優先し,業績が良くても大規模な人員削減を強行する「雇用なき成長」へ舵を切っており,将来的な関税引き上げによる物価上昇を警戒し,物流・消費関連企業も先回りしてリストラを進めている。他方,企業のCEO報酬がこの10年で5割増となるなど利益や役員報酬が急増するなど庶民の感覚とのズレが決定的になっている。物価高に苦しむ中産階級に対し,高額所得者の無神経な発言(ケロッグCEOの事例など)が反感を買っており,現代版「マリー・アントワネット」のような階級間の断絶が起きていること。さらには消費統計でも一見好調な個人消費(GDPの7割)も,その実態は所得上位20%に依存しており,それ以外の層は伸び悩んでる実態。また,大卒者の消費が堅調な一方,非大卒者の消費は減少傾向にあり,教育水準が経済格差に直結している現実が浮き彫りになっている現実。それが11月の東部2州での知事選やニューヨーク市長選で民主党の勝利につながったこと。
そうした認識がトランプ大統領にあるが故,一方では,彼自身が議会で成立させた「減税法が実施に移されるまで,辛抱してほしい」と自身の支持者に忍耐を説きながら,他方では,色々な名目で“現金”を,社会の各層に還付する案を次々と口にし始めている。
もう一つの戦い;州議会共和党をも巻き込んでの,トランプ専制補強努力
2026年の米国政治を見る場合,もう一つ面白い局面がある。専制統治化への動きは,単に大統領のみが実行しようとしているのではなく,政党としての共和党自身が主体的に行おうとしているのも亦,トランプ流だから。
その具体例は,連邦下院議員の,当該州内での選挙区の区割り修正の動きだ。
従来ならば,この区割り修正“Reapportionment”は,10年に一度の人口センサスの結果として導き出される各州の人口増減を正確に反映させて,人口増の州からはより多くの連邦下院議員が選出され,人口減の州からは,その減少度合いに応じてより少ない議員が選出されるように,修正する仕組みだった。例えばテキサス州の人口が10%増え,ニューヨーク州の人口が8%減れば,母数たる連邦下院議員総数435には手を付けず,その内訳を,テキサスに10%増分多くの議席を与え,人口減のニューヨークには8%分,議席を減らす。要するに,435議席×(当該州の人口÷米国の総人口)で,下院議席の州ごとの割り当て数を調整し直す。その際,州内の選挙区をどう改編するかは,それぞれの州議会と州知事に任せることとなっている。
しかし,その意義付けが2025年に大きく覆された。10年毎のReapportionmentを,2026中間選挙を前に,自党議員の数を増やすことだけのために,州独自の判断で選挙区調整をやろうとする。そんなゲリマンダリングの動きが,共和党の中から出始めたのだ。2025年12月25日時点で連邦議会下院の勢力は,共和党220議席,民主党213議席,空席2。つまり,下院の共和党議員が4名造反するだけで,下院民主党はトランプ大統領にノーを突き付けることが出来る。こんな剃刀の刃のような薄い多数派では,中間選挙後の,恐らくは,もっと大胆となるはずの,トランプ・アジェンダを追求することは不可能。だとすればどうするか…。恐らくは,そんな思いに駆られての対応策として,トランプ大統領側近は,上記のようなゲリマンダリングを考え出したのだろう。
先鞭を切ったのはテキサス州の州議会共和党だった。7月末,年初より選挙区調整を模索していたテキサス州共和党は,州内連邦下院議員選挙区の大幅な修正案を提示し,州議会で成立させた。この修正によると,さもなければ当選していたはずの民主党議員5名が,新しい選挙区では,民主党支持者の数が少ない線引きであるが故に,当選出来なくなるという。因みにテキサス州議会は圧倒的に共和党優位,州知事も共和党だ。
このテキサスを先例に,共和党優位にあるオハイオやミズーリ―,更には,東部ノースカロライナなどが追従した。そうした共和党優位州の動きに対抗する民主党優位州が反撃に出始める。最先端を走ったのはカリフォルニア州だった。直近成立した,カリフォルニアの新選挙区マップでは,州内共和党議員の9つの選挙区が槍玉にあがり,そのうち5つの選挙区では,共和党現職の当選が不可能となった由。つまり,テキサスで民主党現職が5名落とされる分,カリフォルニアで共和党現職が5名落選するという具合だ。尤も,こうした民主党優位州での,ゲリマンダリングによる共和党議員締め出しは,共和党優位州での民主党議員締め出しよりは難しそうだ。前述したように,共和党優位州のオハイオやミズーリ―が既に選挙区調整済みなのに対し,民主党優位州のイリノイやニューヨークでは,そもそも共和党支持者がまとまって住んでいる地域が多く,そこを分断するマッピングは大変に難しいとのこと。各州の担当者は,そうした線引きが仮に成立したとしても,微修正や異議続出の事態を考えると,新マップは早くて2027年以後にしか使い物にならないという。つまり,2026年中間選挙には間に合わない。
上院では共和党優位は維持される見通しのようなので,上記下院での共和党優位州でのゲリマンダリング選挙区調整の行方にこそ注目しておく必要がある,というわけだ。
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