世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の設備投資ブームは到来するか
((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)
2024.09.02
5年前に日本の設備投資動向について分析した(リンク先はこちら)。当時,日本の民間設備投資は回復していたが,そのペースは緩慢であった。投資が緩慢な背景として,不確実性の増大や投資機会の減少に加えて,非製造業領域,とりわけサービス化への取り組みの遅れと対外直接投資の増大と「地産地消」の進展が関係していたと指摘した。
それから数年経ち,その間に日本企業はコロナ禍も経験した。また取り巻く環境において脱炭素化の進展や経済安全保障の強化という新たな流れも加わった。さて日本の設備投資動向はどのように変化したのだろうか。
2023年度の民間設備投資は100兆円を突破
民間設備投資の推移をみると,2020年度にコロナ禍で低下した後,回復を続けており,2023年度は102兆円台に達する見込みである。現行統計で民間設備投資が100兆円台を記録するのは初めてのことである。
現在,日本国内ではデジタルトランスフォーメーション(DX)に加えて脱炭素化や経済安全保障に関連する設備投資需要が顕在化しており,投資機会は徐々に増えている状況である。日本政策投資銀行の2024年度設備投資計画調査によると,昨年度から先送りされた設備投資に加え,デジタル化の加速を受けて,半導体関連の能力増強投資が拡大し,電気自動車(EV)や車載蓄電池等の電動化投資も増加するとしている。さらにインバウンド増加等による空港機能拡張や都心再開発も関連設備投資を促進するだろう。
内閣府の企業行動に関するアンケート調査を見ると,日本企業が予想する3年後や5年後の期待成長率は,2019年度をボトムとして上昇に転じており,名目で見るといずれも2.1%の成長率見通しとなり,5年前の同調査から1ポイント以上上昇している。実質で見ても3年後や5年後の期待成長率はいずれも1.3%とこちらも同じく0.5ポイント程度上昇している。
日本のデジタル化投資はこれから本番
日本企業のサービス化の取り組みとも連動するデジタル化投資は,近年,AIやIoTの社内活用が進んだことから加速している。日本政策投資銀行によると,AIやIoTを議事録の作成から製品検査,運転最適化,市場予測などで活用しており,その割合は回答企業全体の3割に上る。とはいえ,米国企業に比べるとその活用や成果は見劣りがしており,とりわけ事業構造や企業文化の変革などDXの取り組みについては途上といえるだろう。ただ見方を変えれば,日本企業のデジタル化投資はまだまだ伸びしろがあるともいえる。
国内生産拠点については,コロナ禍や米中対立を契機にサプライチェーン強靭化の取り組みもあって強化する動きがみられる。一方,海外生産拠点については欧米や東南アジアでは対外直接投資などの海外投資が引き続き活発だが,中国においては現状維持と回答する企業が増えており,「地産地消」一辺倒となっていないことに注意が必要だろう。
「国内投資促進パッケージ」に期待
地域の中堅・中小企業も設備投資に前向きとなっており,本格的な国内設備投資への期待が高まっている。ただ外部環境を見ると,世界経済の不確実性は数年前に比べて高い。米中対立は激化と長期化の様相を呈しており,ロシア・ウクライナ戦争や中東での地政学的緊張も生じている。新型コロナウイルスに続く新たなパンデミックの恐れもある。このような中で円高,金利上昇,株安,そして世界的な景気後退が発生すれば企業の設備投資姿勢が一変しよう。2023年12月に政府によって脱炭素,DX,人的資本,中堅・中小企業・スタータップ等を対象とした「国内投資促進パッケージ」が発表されたが,先に述べた外部環境の変化に注意しつつ,企業の前向き投資姿勢を後押しするか注目していきたい。
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