世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
アメリカのイノベーション活性化の優位
(国際貿易投資研究所 客員研究員)
2024.07.01
中国,ロシア,アメリカ,日本,韓国,そしてヨーロッパのドイツ,イギリス,イタリア,フランスに関するイノベーション活性化につながる研究の状況を見ていると,アメリカに優位がある。
1.自動車製造業の付加価値と特許
自動車製造業の付加価値の1位は中国である。そして,2位アメリカ,3位日本,4位ドイツで,それぞれの付加価値は,中国の50%,50%,46%と半分程度である。5位が韓国で,付加価値は中国の10%である。EUのイギリス,イタリア,フランスは,それぞれ中国の6%,5%,4%でロシアは0%である。
自動車の制御技術の特許数に関して,1位が日本である。2位中国,3位アメリカでドイツは4位,韓国が5位である。特許数は,日本が1,556件で,UKとフランスの特許数は日本の6%である。9位のイタリアの特許数は,日本の5%である。ロシアのそれは日本の1%である。
2.論文数(2022年):圧倒的に多い中国
論文数(注1)に関しては,コンピュータ科学と工学系科学の論文数のデータが利用可能である。
(1)コンピュータ科学論文数
コンピュータ科学論文数は,中国が1位であり,アメリカが2位である。アメリカの論文数は中国の33%に留まっている。3位ドイツ,4位日本で,それぞれ中国の12%,9%である。その他のUK,イタリア,韓国,フランス,ロシアの論文数は中国の6~8%である。
(2)工学系科学論文数
工学系科学論文数も,中国が1位であり,アメリカが2位である。アメリカの論文数は中国の22%。3位以下のドイツ,韓国,日本,ロシア,イタリア,UK,フランスの論文数は,中国の4~7%である。
3.人口1人当たり研究費と研究者1人当たり研究費(2021年):アメリカの優位
「人口」1人当たり研究費(注2)は,アメリカ,韓国が同額で1位である。3位ドイツ,4位UK,5位日本,6位フランスと続き,それぞれアメリカの77%,61%,60%,50%である。イタリアと中国の人口1人当たり研究費は,それぞれアメリカの28%,20%である。ロシアの人口1人当たり研究費はアメリカの14%に過ぎない。
「研究者」1人当たりの研究費では,アメリカが1位で,2位のドイツはアメリカの3分の2である。その他の国では,中国がアメリカの57%,フランスが47%である。韓国,日本,イタリア,UKの研究者1人当たりの研究費はアメリカの約半分となっている。ロシアのそれはアメリカの4分の1である。
4.要約すると,論文数は中国,研究費はアメリカ,ロシアは研究軽視
論文数は中国が圧倒的に多い。第1に,コンピュータ科学,工学系科学を含むすべての科学論文数で中国が多い。コンピュータ科学ではアメリカは中国の3分の1しかない。ロシアは,論文数だけイタリア,フランスなどと並ぶ。第2に,研究費は,人口1人当たり研究費でも研究者1人当たり研究費でもアメリカが多い。他の国はロシアを除くとほとんど半分程度である。第3に,ロシアは,人口1人当たり研究費でも研究者1人当たり研究費でも他の国に比べいずれも少ない。
5.「研究予算」の設定がイノベーションの「マスター・スイッチ」
アメリカ,韓国,ドイツ,UK,日本,フランス,中国,ロシア,イタリアの9ヶ国,自動車と知識産業の5業種,45事例について回帰分析およびグレンジャー因果分析を行った(著者による)。研究予算から始まる変数と論文数,特許数,付加価値額との間に,相関関係やグレンジャー因果関係が統計的に有意に成立している。
以下の結果が得られた「研究予算」の増加は「論文数」の増加に,「特許件数」の増加に,そして「付加価値」の増加につながる。
結論として,「研究予算」の増加は,付加価値の増加につながる。付加価値をイノベーションの代理変数とみなすと,イノベーションにおける「マスター・スイッチ」が,「研究予算」の構築であることがわかる。研究予算の設定がイノベーション活性化のスイッチである。
6.アメリカのイノベーション活性化の優位
研究者1人当たり研究費が1位であるのはアメリカである。この事実に,「研究予算」が知識産業イノベーションの「マスター・スイッチ」である結果を加味すると,アメリカがイノベーション活性化に優位である。一方で,中国の論文数と特許数が圧倒的に多い。また,ロシアがイノベーション活性化の面で世界の主力国から取り残されている。このような世界のイノベーション活性化に関する勢力図が浮かび上がる。
[注]
- (1)統計はNSF(US National Science Foundation).
- (2)統計はUNESCO(UNESCO Institute of Statistics). 各国の研究開発費総額をフルタイム換算の研究者数で割って算出している。研究者数はフルタイム換算ベースで実際に研究開発へ従事した割合で按分した値。
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