世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3466
世界経済評論IMPACT No.3466

北九州市GXを加速させるグリーンLPガス開発

橘川武郎

(国際大学 学長)

2024.06.24

 2023年2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」は,「今後10年間で150兆円超の官民投資」が行われるという見通しを示した。また,それを実現する呼び水として,国債を発行して得る20兆円を,GXに先行的に取り組む自治体や事業者に対して補助金として支給する方針も打ち出した。さらには,この補助金の支給にあたって,大都市周辺の3地域とその他の5地域を重点地域として指定することも明らかにした。

 全国の多くの自治体は,この「3+5地域」の重点地域に指定されるために,血眼になってGXへの取組みを強めている。北九州市も,その例外ではない。

 北九州市では,23年12月に北九州GX推進コンソーシアムが設立され,産学官金が一体となってGXを推進する体制が整った。同コンソーシアムは,①最先端の研究開発・社会実装(北九州学術研究都市に結集する大学等の知見を活用し,企業と連携して社会実装を推進),②GX関連産業集積(カーボンニュートラルの先進地域としてGX関連産業集積を促進),③GX人材の育成(GXのマインドセットを広く浸透させ,大学の知を活用してGX人材を育成),④地域企業のGX支援(カーボンニュートラルを成長機会と捉えて企業変革へ挑戦),という四つの取組みを進めている。

 GXに本格的に取り組む以前から北九州市は,水素・再生可能エネルギー・サーキュラーエコノミー等の充実した実証エリアとして,全国にその名を知られた存在であった。市内の東田地区の水素タウンエリアでは,街中を貫く水素パイプラインが敷設され,水素関連技術の開発と実証が進められた。同じ東田地区でのMaaS(Mobility as a Service)プロジェクトでは,EV(電気自動車)バスの社会実装が行われた。そして現在も,臨海部には日本最大のエコタウンである響灘エコタウンが展開しており,都市型洋上風力拠点や水素活用拠点,資源循環拠点をめざすまちづくりが進行中である。

 このような諸事情を考慮に入れれば北九州市は,GX重点地域に選定される可能性は高いと言えるが,最近になって,さらに強力な援軍が出現した。それは,市西部の北九州学術研究都市内で始まった,グリーンLP(液化石油)ガス開発への挑戦である。

 23年2月,筆者は,北九州市学術研究都市内にある北九州市立大学の環境技術研究所を訪れ,稼働中のグリーンLPガス2段反応装置を間近で見学する機会を得た。同装置を運転しているのは北九州市立大学のGreen LPG研究室であり,その主宰者は,同大学の藤元薫特任教授である。

 これまで藤元特任教授には,グリーンLPガス推進官民検討会の場で,2回にわたって,オンラインを通じてお話をうかがったことがあるが,お会いするのは,今回が初めてであった。ご高齢であるにもかかわらず,予想以上にお元気であり,溌剌とされていた。

 藤元教授は,2000年代なかば以来一貫して,一酸化炭素と水素の合成ガスからLPガス成分(プロパン,ブタン,とくにイソブタン)を温和な条件で高収率に得る特殊触媒の開発に取り組んできた。北九州市立大学環境技術研究所でのプロジェクトは,この触媒技術を基盤にして,ハイブリッド触媒反応とLPガス触媒反応との2段階反応を連続して行うものであり,二酸化炭素とグリーン水素からグリーンLPガスを高効率で合成するものである。メタノール合成触媒とメタノールまたはDME(ジメチルエーテル)の水素化重合触媒とのハイブリッド触媒を用い,さらには触媒の活性劣化を防ぐため,反応中に生成する水蒸気を取り除くインタークーラーを設置する点に特徴がある。

 目の当たりにしたグリーンLPガス2段反応装置は,小型のベンチプラントということもあって,通常の大学の研究室と同程度の広さのGreen LPG研究室内にスポっと収まっていた。しかし,そこには,グリーンLPガスへの道を切り開くフロンティア精神が凝縮しているように感じられた。

 藤元特任教授率いる北九州市立大学のGreen LPG研究室では,これまでに,二酸化炭素を改質し最適の一酸化炭素/二酸化炭素比をもつ原料ガスを調整する方法や,触媒をその場で再生する方法の開発に成功し,二酸化炭素からグリーンLPガスへの直接合成プロセスおよびDMEを経由する2段プロセスの確立に成功してきた。現在は,耐水性,耐コーク性に優れた新しいゼオライトの開発などに取り組んでいる。

 北九州市立大学Green LPG研究室は,プロジェクト2期計画として,北九州市ひびき地区にあるエコタウン内に,大型ベンチプラントを建設中である。車に乗り約20分ほどかけて,北九州市学術研究都市からエコタウンへ向かった。エコタウンの建設現場では,ベンチプラント本体と管理棟の建屋が姿を表しつつあった。あわせて,小さな町工場くらいの大きさであった。

 グリーンLPガスの開発は,北九州GX推進コンソーシアムが進める①の「最先端の研究開発・社会実装」の一環として,位置づけることができる。北九州市でのGX推進の取組みは,グリーンLPガス開発という新顔の登場によって,さらに加速することだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3466.html)

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