世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3387
世界経済評論IMPACT No.3387

進化するSOECメタネーション:大阪ガスカーボンニュートラルリサーチハブ再訪記

橘川武郎

(国際大学 学長)

2024.04.22

 2023年12月26日,大阪市此花区酉島にある大阪ガスのカーボンニュートラルリサーチハブ(以下,CNRHと表記)を見学する機会を得た。22年3月以来の再訪である。

 CNRHが開設されたのは21年10月であるから,筆者は,開設後5ヵ月と2年2ヵ月とのタイミングで,同ハブを見学したことになる。この1年9ヵ月のあいだに,CNRHは,着実な進化を遂げていた。

 CNRHは,大阪ガスのカーボンニュートラル技術に関する研究拠点である。都市ガス,水素・アンモニア,電気を対象とし,それぞれの「“つくる”技術」と「うまく“つかう”技術」を開発している。都市ガスの“つくる”技術ではメタネーション,うまく“つかう”技術では高効率ガス利用機器,水素・アンモニアの“つくる”技術ではケミカルルーピング燃焼,うまく“つかう”技術では特定エリアでの燃焼,電気の“つくる”技術では風力・バイオガス・太陽光,うまく“つかう”技術では高効率燃焼ではVPPと蓄電池が,各々,主要な研究対象となっている。なお,ケミカルルーピング燃焼とは,酸化鉄を循環させながら燃料や水,空気と反応させることにより,水素製造,排熱利用発電,高濃度二酸化(CO2)炭素分離を同時に行う技術のことである。また,仮想発電所を意味するVPPとは,小規模の電源設備をまとめて管理し,全体として一つの発電所のような機能を得るシステムのことである。

 これらの諸技術のうち,今回は,メタネーションに的を絞って見学した。カーボンフリーの水素とCO2から都市ガスの主成分であるメタンを合成するメタネーションは,都市ガス産業のカーボンニュートラルをめざす施策の柱である。合成メタンであっても燃焼時にはCO2を排出するが,製造時にCO2を使用することによって相殺されると考えられ,カーボンニュートラルとみなされるわけである。

 CNRHの最大の特徴は,サバティエ反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)を用いる既存技術とは異なる,革新的なメタネーション技術の開発にも取り組んでいる点にある。

 大阪ガスがCNRHで開発を進める革新的メタネーション技術は,SOEC(固体酸化物形電気分解セル)メタネーションである。SOEC方式は,メタン合成連携反応を用いるメタネーションであり,3H2O+CO2→CO+3H2+2O2とCO+3H2→CH4+H2Oという二つの反応式で表現される。700℃程度の高温では低い電圧で電解反応が進むため,必要となる電解電力を削減できることに加えて,メタネーションの排熱を有効利用することにより高効率化を図る。総合効率85〜90%の達成を目標としている。

 SOECには,①水とCO2と再生可能エネルギー由来電力(再エネ電力)とを用いるだけで合成メタンを製造することが可能で,外部から水素を調達する必要がない,②メタン合成時の反応熱を有効利用することで,再エネ電力からメタンへのエネルギー変換効率を高めることができる,という大きな特徴がある。このうち①について言えば,システム内部で水素が生成するため,水素の外部注入が不要となる。また,②はメタネーションのコストの大半を占める再エネ電力の費用を抑えることにつながる。

 サバティエ方式の既存のメタネーションでは再エネ電力による電気分解で得る水素の外部調達が不可欠であるため,再エネ電力のコストが低い海外での合成メタン製造が避けられない。これに対し,外部水素不要で使用電力量を減らすことができるSOECメタネーションは,国内での合成メタン製造の可能性を高めるものと言える。本欄で2023年10月16日に発信した「国内でメタネーションに取り組む意義」(「世界経済評論IMPACT」No.3156)で述べたように,今,生産工程のカーボンフリー化を強く迫られている日本の多くの製造業事業者のあいだでは,国内でのメタネーションの実現を求める声が高まっている。SOECメタネーションは,そのような製造業事業者の期待に応えるものとなりうるのである。

 SOECメタネーションについては,高温電解に必要なセルの開発,メタン合成触媒の耐久性・反応制御の向上,高温下で一連の反応を連続して行うシステムの構築などが,課題としてあげられる。今回のCNRHの見学を通じて,これらの課題への取り組みが確実に進展している様子を確認することができた。

 とくに,開発中の,金属を基板とする高温電解用セルを手に取ることができたことは,感慨深かった。今後,1枚1枚のセルを拡大すること,さらにはそれらを積層化することによって,電解容量を拡大していくと聞いた。

 CNRHでは,SOECメタネーションだけでなく,サバティエ方式メタネーションやバイオメタネーションにかかわる装置も見学した。そして,サバティエ方式メタネーションとSOECメタネーションによって作られた合成メタンに,それぞれ着火していただいた。

 印象的だったのは,やはり,SOECメタネーションによる合成メタンの炎の方である。初めて見る革新的メタネーションの「成果」は,小さいが力強く,青くて美しかった。

 1年9ヵ月前と比べて,CNRHには,装置の数が格段に増えていた。にもかかわらず,整理整頓はむしろ行き届いたように感じた。

 一方,前回と同様に,CNRHで研究に携わる方々の士気は高かった。ここからカーボンニュートラルへと続く日本と世界の未来が始まるという予感を,改めて強くした年の瀬であった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3387.html)

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