世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3331
世界経済評論IMPACT No.3331

インドの先進国入り目標と戦略的自律外交

山崎恭平

(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)

2024.03.11

 最近の世銀やIMFの世界経済予測によると,3期目の習近平主席が独裁体制で覇権主義を強める中国経済が減速する一方,今春の総選挙で3期目を狙うナレンドラ・モディ政権下のインド経済は主要国で最速の成長を示し始めている。この好調が続けば,インドは2027年頃に米国,中国に次ぐ世界第3位の経済大国となる見通しで,独立後100年の47年までの先進国入りを視野に置く。また,36年には平和の祭典オリンピック競技大会の招致意向も話題になっている。分断と対立で混迷する今日の世界情勢下にあって,存在感を強める世界最大の民主主義国インドに戦略的自律外交の夢を託してみたい。

2047年までに先進国入りの目標

 多様性を反映するインドで,1月26日の共和制記念日と8月15日の独立記念日は全国共通の祝祭日である。前者は1950年のこの日世界最長の憲法が公布され,また後者は47年に宗主国英国から独立した日に由来する。共和制記念日はテーマの発信や多様な宗教や民族色豊かなパレードが国際的に知られ,首都ニューデリーでの式典では外交重要国の元首が主賓として招かれる。今年の第75回共和制記念日では,独立100年目の2047年の先進国入りがテーマで,当初予定されていた米国バイデン大統領の都合がつかずフランスのマクロン大統領が主賓で訪印した。

 今年2024年の4~5月には連邦下院議会の総選挙が行われる運びで,14年から2期目の終盤を迎えた現モディ政権は3期目(Modi3.0)を担う準備に入っている。経済改革の効果もあって第1期が始まった頃の世界第10位から現在は第5位の経済大国に躍進し,23年には中国を抜いて世界最大の人口大国となった。Modi3.0では,47年までにインドが先進国入りするテーマ(Viksit Bharat)を実現するために前例のない発展を図ると,2月初めには課題を担う農民,若者,女性及び貧困層への支援を強化する24/25年度(4~3月)連邦暫定予算を発表している。

 国造りをどのように進めるか,近年,独裁体制や覇権主義の国家体制が目立つ世界の中で,インドは世界最大の民主主義の母国(Bharat - Loktantra ki Matruka)として,人権や自由を守り法に則った民主主義を堅持する。インドの民主主義を懸念する向きもあるが,発展途上国ながら多様性の中で統一を図り,独立以来一貫して議会制民主主義を実践してきた実績に誇りを持っている。そして,自国の安全保障を守るために,パキスタン,ネパール,ブータン,スリランカ,モリディブ等近隣周辺国やインド洋への中国の覇権主義的な一帯一路(BRI)政策を座視できず,日本,米国,豪州との戦略対話(Quad)や法の支配に基づく自由で開放的なアジア太平洋政策(FOIP)通じ協調する。

分断と対立世界におけるインド外交

 インドの対外政策は戦略的自律外交で,非同盟全方位外交とか同バランス外交と言われている。東西両陣営いずれにも属さず,社会主義圏のロシアや中国と連携しつつも同時に資本主義の欧米諸国とも協調し,昨年G20議長国を務めた際にはグローバル・サウスの国々の盟主で代弁者を演じた。それ故インドの外交は自主独自政策と言われるも,実態は理念的な友好政策に止まるのではなく,実際の国益を重視する現実的なアプローチ政策である。そして,今日の分断と対立の国際社会にあっては,双方のパートナーに関与し協議して調整する高度な外交力となり得て,言わば懸案を解決するコンセンサス・ビルダー役(S・ジャイシャンカール外相)を果たせよう。

 ロシアのウクライナ軍事侵攻は2年経過し,大儀名分の下で一般市民や子供達に多くの犠牲者が出ている。中東におけるイスラエルとハマスの戦争も悲惨である。これらの悲惨な戦争を21世紀の国際社会は回避し停戦休戦,そして和平に導くことはできないのか。国連の機関も,国際秩序を乱す国家に対して是正する機能が果たせなくなっている。そんな中で,インドは前記のような戦争で争う双方の国に関与し調整する稀有な外交スタンスを有し,ロシアに「今は戦争の時ではない」と誡めた実績がある。今後3大国へ躍進するインドには,戦争や紛争からの和平実現に向けてコンセンサス・ビルダー外交を是非推進して欲しいと願う。

 今年の共和制記念日で首都の軍事パレードでは,国産防衛機器の参加が目立ったようである。かつて幅を利かせていた旧ソ連,現ロシア製の機器に代わって米国やフランス製の機器も登場した。自立するインドの安全保障政策や国防政策は,防衛機器のアウトソーシングだけではなく国産化の強化を図り,ウクライナ戦争で部品輸入が滞りがちなロシア製以外からの調達に努めている。また,国境を接する中国のアジア太平洋地域やインド洋圏への覇権主義に対抗する上で,インドは最近特に米国とフランスとの間で安全保障や防衛協力を急速に進めている。インドが実利を追求する戦略的自律外交の具体例として,今後の展開に注目したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3331.html)

関連記事

山崎恭平

最新のコラム