世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
現在の岸田政権の経済対策について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2023.10.30
現在,岸田文雄政権が11月初旬にまとめる経済対策に関する議論が,新聞やTVニュースなどのマスメディアで賑やかである。成長による「税収増」を還元するということで熱い議論が交わされている。特に,この還元が個人所得税の減税と住民税非課税世帯への給付金を合わせたものであることが報道されてから,この対策の是非についての議論がヒートアップしている。
この減税に関する議論には,否定的なものが多い。減税するよりも財政の立て直しに税収増を当てるべきであるとか,インフレを加速させるとか,景気浮揚効果はないとか,減税するなら全国民に給付金を支給するべきである等々。しかし,これらの否定的意見にはそれぞれ一理ある。日本の国債残高は世界的に見て突出しており,減税という財政拡大策はインフレを増加させるし,減税は実際に実施されるまでに時間がかかるので,給付金の方が早く実現するからである。
岸田政権の経済対策は不人気であるが,この対策を別の観点から見てみたい。つまり,岸田政権の財政政策の進め方という視点である。この視点に立つと,現政権は,これまでの政権とは異なるのである。これまでの政権は,財源(収入)と合わせて支出を増やす政策を進めてきた。これは,財政難の日本では無難で堅実な進め方である。一方,岸田政権は最初にある将来時点の望ましい支出規模を設定して,それに合わせて,財源(収入)を考えるという進め方である。防衛費増額や子育て支援などがその例である。この進め方は本質的にSDGs(持続的な開発目標)と同じである。2030年に達成すべきことを先に決めて,それを実現するために,今から何をすべきかを考える。
岸田政権の財政政策の進め方は近年の日本にはない斬新なものである。この将来の目標を決めてそれに合わせて現在必要なことを考えるというSDGs方式とも言える財政政策の進め方は,論理的に一貫性を有しており,その意味では岸田政権の財政政策には矛盾がない。しかし,悪魔は細部に宿るのである。この現在の必要なことに相当する具体化の作業ではこの方針とは一致していない対策を取ろうとしている。現在の経済対策の柱である減税はその最たる例である。そのため,ぶれているなどとの批判を受けるのである。このSDGs方式での進め方に沿えば,税収増は子育て支援や防衛費増額に充てるのが筋であろう。
この筋を通さずに,その場しのぎの対応に終始していることがこの政権の弱点である。今一度,SDGs方式に立ち返って,この弱点を克服しない限り,これからもぶれている,何がやりたいか分からないといった批判を受け続けるのである。
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