世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
不動産バブル崩壊回避に動く中国
(福井県立大学 客員教授)
2023.10.23
中国の不動産大手,恒大集団のデフォルトのニュースは中国版不動産バブル崩壊の兆候かと,世界のマーケット関係者は大きな関心を持ったが,今度は創業者である許家印氏が9月に逮捕されたとの報道もあり,不動産業界の混乱が中国経済に深刻な影響を与えるのは確実なように思われる。
振り返ると,改革開放による高成長のおかげで,不動産価格は右肩上がりの上昇を続け,不動産物件は投機の対象となり,不動産市場は急拡大を見せていった。もはや若い世代の持ち家は困難との見方も出てきたので,「共同富裕」を標榜する習近平総書記にとっては看過できない事態と映った。「住宅は住むためのものであり,投機のためのものではない」という指令が発せられ,具体的には2021年から不動産業者への銀行融資において,負債比率をベースにした三条紅線という指標を使った厳格化が実施されることになった。
この結果,融資を受けられない不動産デベロッパーは開発を中止して供給を減らす一方で,個人は住宅ローン審査の厳格化で購入を手控えるといった始末で,需給ともに不動産市場は縮小に向かうことになった。2022年の住宅販売面積は前年比27%の大幅減少で,住宅販売価格も頭打ち,月によっては前年水準を下回る事態も起きている。三条紅線は日本のバブル崩壊の引き金となった総量規制に類するもので,恒大集団,融創中国,佳兆業集団などが債務不履行に陥った。また,最大手の碧桂園の経営悪化も取り沙汰されている。
しかし,バブルが崩壊すると若者の住宅ニーズが満たされないので,2023年の全人代で政府は住宅購入を支援すると表明しているが,ブレーキとアクセルを踏み分けるのは容易ではない。既に不動産引き締め緩和策や需要喚起策も取られているが,デベロッパーへの資金繰り支援が主で,債務再編という抜本策には踏み込んではいない。
中国の住宅販売は予約販売形式で,経営に不安を持つ企業から購入すると,引き渡し不能という事態に直面するリスクがある。昨今の状況では消費者が安心できる企業に需要が集中する傾向が強く,国有デベロッパーよりも民間デベロッパーの需要の減少幅が大きくなっているようだ。そこで,不動産バブルが崩壊して日本が経験した「失われた10年」に似た長期デフレに中国が突入するのではないかとの懸念も囁かれる。確かに日本の場合は総量規制に加えて,バブル退治を望む国民の声もあって,政府も日銀も本気でバブル潰しにかかった結果,想定外のデフレを招いてしまったからだ。
しかし,中国は日本と異なり,共産党一党独裁の国家である。体制を壊しかねないリスクのある不動産バブル崩壊は絶対に阻止するだろう。バブル崩壊は行き過ぎた価格調整が発端となって進行する。よって,価格下落を放置せず資金繰りさえ支援してやれば,いずれ価格が底を打ってリバウンドしてくるものと思われる。米国のリーマンショック,不動産バブル崩壊リスクも日本の経験に学んだFRB(米連邦準備制度理事会)が資金ショートを起こさせないよう動いた結果,短期間での収束で片づいた。
中国はバブル崩壊時の日米の対応の違いについてはよく研究していると思われ,当局主導による金融支援でデベロッパーの連鎖倒産を防ぎ,政策金融などを活用した購買支援で需給をコントロールしつつ,長期的な債務再編を進めていくだろう。但し,当面は不動産市場の調整期間が続くので,不動産市場が担ってきた成長の牽引力が失われるのは明らかである。中国経済の先行きは引き続き楽観を許さないようだ。
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