世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3126
世界経済評論IMPACT No.3126

中国および日本のASEANとの経済関連会合と今後の展望

石戸 光

(千葉大学・バンコクキャンパス 長)

2023.09.25

 2023年9月6日にインドネシア(ジャカルタ)第26回ASEAN・中国首脳会議が開催された。今年のASEAN議長国・インドネシアのジョコ大統領は,議長声明において中国とASEANの平和,安全および繁栄とともに,相互の信頼の重要性を強調したのに対して,出席した中国の李強首相は,中国とASEANの運命共同体的な関係をより緊密に構築したいとし,具体的には経済成長センターの構築,中国とASEANの相互の連結を高めること,産業およびサプライチェーン,エネルギーや電気自動車,太陽光発電やAIなどの分野における協力の深化をまず挙げ,それから南シナ海(領有権)についての協議推進,人々の文化交流の拡大を提案した。ASEAN側が安全保障関連を前面に出しているのに対して,中国は,経済面の実利的な協力をより重視していることがうかがえる。

 また2023年9月の下旬には,中国-ASEAN博覧会(China-ASEAN Expo: CAEXPO)が中国広西省チワン族自治区の南寧で開幕された。他の見本市とは一線を画すCAEXPOは,中国およびASEAN各国の政府およびASEAN事務局が後援(共催)するイベントで,中国とASEANの友好関係を強化し,協力を促進する目的で,中国において毎年開催されている。CAEXPOの開会式にはベトナムのファム・ミン・チン首相,最近就任したカンボジアのフン・マネット首相などASEAN各国の首脳や高官が参加し,政府主導によるビジネス関連のイベントであることがうかがえる。これらの国は中国との貿易比率が高く,貿易・投資を通じた経済面のつながりと政治的な交流が密接に関連している。特に2023年は,中国とASEAN(東南アジア諸国連合)の戦略的パートナーシップ設立20周年,中国・ASEAN博覧会の設立20周年にあたり,今回のCAEXPOは節目としての意義を持つ,と中国およびASEAN双方から位置づけられている。このイベントには,大企業のみならず中小企業も参加しており,新たなバイヤーとの契約の締結を期待するASEANの中小企業からの参加者の声も報道されている。中国の主導するCAEXPOは,経済(とりわけ貿易)面での中国とASEAN各国との関係強化を象徴するイベントの1つといえる。

 一方,日本との関連では,2023年は日本ASEAN友好協力50周年の節目にもあたり,日本とASEANの関連でも,大小さまざまな貿易・投資促進関連のイベントが予定されている。特筆すべきは,上述のASEAN・中国首脳会議と同じく9月6日に開催されたASEAN・日本首脳会議において,日本がASEANにとっての「包括的戦略的パートナー」に格上げされる旨の声明が採択され,その上で具体的な経済協力案も議論された。「包括的」という意味合いは,文字通りのもので,経済面を超えた政治面・安全保障面・環境対策面などを含む,あらゆる分野での連携が念頭に置かれている。ASEANはすでに米国,中国,オーストラリアおよびインドと包括的パートナーの関係にあるが,経済面を超えた,とりわけ南シナ海における領有権問題や中国の一帯一路政策への対応を含む政治・安全保障面において,ASEANの利益となるパートナーシップ体制を日本が構築しうるか,50周年の節目となる今年,ASEAN側は期待感を持ちつつ注視している。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3126.html)

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