世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3109
世界経済評論IMPACT No.3109

社会保険料率は何%まで上昇するのか:政府は2040年度・50年度の試算を示せ

小黒一正

(法政大学 教授)

2023.09.11

 岸田政権の目玉の一つは「異次元の少子化対策」だ。この施策の方向性は,2023年6月,「こども未来戦略方針」で概ね固まったが,約3兆円~3兆円半ばに及ぶ財源問題の一部は先送りとなった。政府は12月には財源問題の決着を図る方針のようだが,財源措置で一つの有力候補となっているのが,政府が「支援金」制度と呼ぶ仕組みの創設だ。

 医療などの社会保険料率の上乗せで一定の財源(例:約1兆円)を捻出する制度をいうが,この創設に対し,経団連や日本労働組合総連合会などが既に警戒感を示している。企業の競争力を削ぎ,子育てを担う現役世代の負担が増す可能性があるためだが,これまでの社会保険料率の上昇を考えると,警戒を示すのは当然だ。

 というのも,2023年4月中旬,健康保険組合連合会が2023年度における健康保険の平均料率が9.27%になるとの見通しを公表している。厚生年金の保険料率(18.3%)や介護保険の保険料率(1.78%)も合わせると,社会保険料率は概ね30%に到達し,租税と社会保険料率を合計した「国民負担率」は46.8%(2023年度)となる。

 1988年度の国民負担率は37.1%だったが,国民負担率が上昇したのは,租税負担というよりも社会保険料率の上昇に原因があり,この上昇は社会保障給付費の増加に起因する。実際,「二人以上の勤労者世帯」(全国平均値)で,1988年と2017年を比較すると,所得税等の直接税の負担は微減している一方,社会保険料率の負担が約84%も増加している。

 では,今後,社会保険料率は何倍となるのか。この試算の参考となるのは,2018年5月公表の「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」だ。

 この将来見通しのうち成長率が1%程度の低成長ケースでは,2018年度で121.3兆円(対GDP比21.5%)の社会保障給付費が,2025年度で約140兆円(対GDP比21.8%),2040年度で約190兆円(対GDP比24%)となると予測するが,2023年度の社会保障給付費(予算ベース)は134.3兆円,対GDP比23.5%で,2025年度の予測値(21.8%)を既に1.7%ポイントも上回っている。

 この勢いが継続する前提で,2040年度までの社会保障給付費を予測すると,どうなるか。1995年度から2022年度までの平均成長率は0.35%だが,0.5%という成長率を前提に,社会保障給付費の対GDP比を試算すると,2040年度の値は28%に急上昇する。2018年度の約1.3倍の値であり,その増分を社会保険料の引き上げなどで賄うなら,単純な計算で,社会保険料率も約1.3倍になる可能性がある。

 この状況を放置すれば,社会保険料率の合計が35%を超える日もそう遠くない。小さな政府を目指した小泉政権期では,少子高齢化が進むなか,現役世代の負担増を抑制するため,2004年に年金改革を行い,厚生年金の保険料率の上限を18.3%に定めたが,医療・介護の保険料率には切り込んでおらず,現在も上限が存在しない。子育てを担う現役世代の負担増を抑制するためにも,政府は2040年度・50年度までの社会保険料率の上昇幅に関する試算を早急に示した上で,社会保険料率の全体に上限を定めることも検討すべきだろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3109.html)

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