世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナが変える世界
(日本国際フォーラム 上席研究員)
2023.08.14
今も続くコロナ後遺症
コロナは,その猖獗以来,3年余となり,世界の感染者数は約7億7千万人,死者7百万人弱だが,いまも感染を続ける。この間,各国の政治,経済,社会に与えた衝撃は大きく,かつ,米中関係への影響も甚大だが,その影響・後遺症は現在も進行中といえる。かつて,ペストが中世の教王支配を揺さぶり,ルネッサンスへの道を開いたとされるが,コロナは今も世界を変えている。
この人―人感染力の強い,姿なきウイルスに対し,当初の唯一有効な手段は,社会隔離(Social Distancing)だったが,これまで,人人の接触と交・流の上に,発展してきた近代文明の否定である。多くの国で医療崩壊が起こり,政府は国外との往来遮断のみでなく,国内でも,外出を制限し,マスクを必須とする生活を強いた。多くの飲食業やホテルや運輸機関も活動縮小を強いられ,歴代の老舗を含め,多くの中小企業が倒産し,失業が急拡大した。政府は,財政・金融支援を急拡大し,医療補助や企業支援,雇用維持に努めたが,国民の信任は得難く,トランプ氏は敗れ,安倍首相も病に倒れ,菅総理も辞職した。
Covid19はプラスももたらした。ITによる情報の交流増加だが,特に在宅勤務の増大は就労形態を変化させた。シンクタンクでは,online会議により,国内のみでなく,海外の有識者も広範に,容易に動員できることとなり,その知的活動が拡大した。また,急拡大した財政・金融状況は,新しい政策分野を開拓した。他方,国際貿易では,サプライチェーン中断などから,グローバリゼーションの効能が反省され,経済の安全保障が重視されている。
米国―110万人を超える死者の恨み
国際社会では,米中関係の更なる先鋭化が進んだ。トランプ大統領の対応がまずかったが,米国での110万人を超える死者は,第2次大戦の41万人(南北戦争の61万人)を大きく超える。米国は,中国のみが米国に挑戦する能力をもつ競争国だと警戒してきたが,秋田浩之氏は,米中関係はコロナによって利害対立から,憎悪の敵対関係に進んだとする(2021,第5章「染後秩序―ウイルスが壊す平和」日経政策担当論説委員『コロナ戦記』)。
コロナの中,トランプ氏は大統領選挙を失い,米国社会は分断を激化したが,対中政策では,民主・共和両党とも強硬であり,国防予算はバイデン政権案を上回る裁定である。米国は,同盟国,友好国を誘い,中国に対抗してきたが,中国の台湾侵攻に強い警戒を示す。2022年夏,半導体科学法を制定し,中国への技術流出を規制するが,日本,オランダの輸出規制にも成功した。
米国はコロナに打撃されたが,ワクチンを2020年末,超高速で生み出す強靭性を示した。バイデン政権はワクチン接種を急進し,米国救済法の大規模支援により,経済社会を立ち直らせた。米ワクチンは世界に輸出され,西側の脱コロナは2022年急激に進展し,人的交流も復活した。
中国―ゼロ・コロナ政策の優劣
コロナへの中国の対応は遅れたが,2020年1月末,人口1千万を超す武漢市を強制隔離するとともに,中国全土での外出制約,集会禁止を強化し,顔面認証,電子通行証により,全土監視社会を実現した。中国は,3月感染症闘争での勝利を宣言したが,独裁政権にして可能なIT監視体制だった。さらに言えば,コロナは個々人に直接脅威を与えるため,孫文が「砂の如し」と評した中国人も,政府の強制措置を受け入れやすかったか?各「社区」が他地区の人を自主的に拒否した状況は,それを裏書きする。ただし,これは以後3年間の隔離・監視社会への移行を意味した。
早期収束をした中国は,工場生産を再開し,余剰となった医療資源を駆使し,世界に医療外交を展開し,国際的影響力を高めた。中国は,中国発ウイルスへの国際的調査を拒否するとともに,,世界へのコロナの感染伝播を遅らせたと宣伝する。WHOは中国の責任を追及せず,中国は,中国製ワクチンを押し付け,社会主義体制のコロナ対応の優位ぶりを喧伝した。
習氏は2021年1月「世界は百年に一度の変革期にあるが,中国に有利だ」と述べた。環球時報は,米国に関し,「コロナで百万人の死者を出すのは,近代文明国家ではない,米議会襲撃は米民主義主主義を終わらせた,コロナが,米国の世紀は終わらせた」と報じた。
しかし,2022年に入り,中国では,コロナの再燃が相次ぎ,ロックダウンが続くなか,ゼロコロナ政策への不満が高まり,年末,政府は規制を撤回した。中国製ワクチンの劣位も明らかになり,ゼロコロナ撤回後,死亡者の急増がみられた。また,ゼロコロナ撤回後の期待された経済の回復は弱い。コロナの不況,不動産バブルの崩壊もあり,家計も企業も債務の返済が優先し,中国経済は中期的停滞の危機にある。最近の北京などでの洪水は更なる危機を齎している。
バイデン大統領は民主主義の専制主義への優位が明らかになった主張を強めるが,コロナが中国やロシア社会の閉鎖性を高め,プーチン大統領が高まる孤独の中で,ウクライナ侵攻を決断したとすれば,コロナの悪影響は無視できない。
- 筆 者 :坂本正弘
- 分 野 :特設:ウクライナ危機
- 分 野 :国際経済
- 分 野 :国際政治
- 分 野 :新興国
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