世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
デュアル人口文明国家ニッポンの到来
(白馬会議運営委員会事務局 代表)
2023.08.07
「デュアルシステム」としての日本文明
この4月に発表された国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」は恒例の如く人口衰退国ニッポンの暗い未来を煽っている。曰く総人口は2020年の1億2,615万人から,50年後には8,700万人へ。65歳以上人口は2020年の28.6%から一貫して上昇し,2070年には38.7%に増大する云々。しかし問題は出て来る数字をどんな気分で見つめるかだ。今度の人口推計は日本民族に実は新しい文明の時代がやって来るのを予言している。
「デュアル」(dual)というラテン語由来の英語がある。「2」を表す英語には「ダブル」(double)とか「ツイン」(twin)といった単語がいくつかあるが,「デュアル」は単純に「二つ」や「二重」を表す他に,2つで1つの対や組を成し,お互いが補完しながら組織目的・機能を実現していく意味がある。IT分野で言えば2系統機能を用意して補完し合う「デュアルシステム」の世界だ。
「中年」と「老年」の競争的共存
いきなり飛躍するが日本文明にも,その永遠の発展を実現していく上において極めて重要な人口構造上の「デュアルシステム」が2つ存在する。1つは中年人口と老年人口の補完関係だ。今回の「将来推計人口」によれば2023年現在,子供(0~14歳)・中年(15~64歳)・老年(65歳以上)の構成比は,それぞれ12%,59%,29%である。問題はこの3つのグループの将来展望だ。「高齢化ニッポン」のイメージで行けば子供が減り,老年がどんどん増えて行くというワンパターン思考に陥りそうだが実はそうではない。老年グループは60年後に40%に達しその後長期間に渡ってこの40%を維持する。国立社会保障・人口問題研究所の現在の予測発表期間で行けば少なくとも40年間,2120年まで40%のままだという。つまり高齢化現象がストップし子供1割弱,中年5割弱,老年4割強の人口比率が定着する時代がやって来る。その時代は40年どころか1世紀以上続くかもしれない。中年グループと老年グループが日本文明発展の「デュアルシステム」を形成するとなると,従来の中年人口中心のピラミッド構造型文明社会の遺制は崩壊せざるを得ない。「権限移譲」とか「世代交代」よりも両グループ間の権益闘争が常態化し,グループ内でのヒエラルキー競争も本格化する。「老兵は死なず,ただ去りゆくのみ」式の過去の引退美学も影を潜めよう。
増大する移民人口
人口構造上のもう1つの「デュアルシステム」が日本人と外国人の組み合わせである。今回の国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」は外国人が2020年の275万人から50年後の2070年には939万人に増加し,総人口に占める比率も2.2%からなんと10.8%になるとした。これはコロナパンデミックを挟んだ過去6年間の実績値から弾いた傾向値予測だが,OECDデータ(2018年)で第27位あった日本が50年後には同11位のアイスランド(11.2%)レベルに迫るという将に突然変異的大変動である。日本にインバウンド観光旋風が吹き始めたのに呼応して外国人の対日好感度が急激に改善し,観光のみならず「移住先」としての日本の評価も大幅に上昇してきたと,素直に受け止めればいいのであろう。本予測が傾向値ベースである以上,場合によれば予測がさらに高ぶれして現在,OECD第6位のドイツ(12.9%)を50年後には追い抜いてしまうかもしれない。
問われる新たな日本文明史観
『文明の衝突』を世に残した歴史学者サミュエル・ハンチントンは世界の文明を8大文明に分類し,中華・ヒンズー・イスラム・東方正教会・西欧・ラテンアメリカ・アフリカの各文明に加えて日本文明を入れているが,日本文明だけが一民族,一国家で形成されている極めて特異な存在であるとした。つまり日本人がいなくなったら絶滅する文明であると予言した。もし100年後,日本の人口の20%が外国人となったらハンチントン予言の前提は完全崩壊する。日本文明は絶滅しない。
これからの日本を考える場合,「超高齢化社会」とか「単一民族国家」といった過去の先入観はそろそろ捨てるべきであろう。世界的に断トツな長寿民族である日本人には老中世代間の競争あるいは共創に関わるリアルな社会設計が求められている。又,古くは帰化人,渡来人のDNAに由来する混血融合型文化創造の原点回帰に真剣に立ち向かうことになろう。
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