世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
GX拠点整備のもう一つの焦点となる中部圏
(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)
2023.08.07
最近,「GX」という言葉をよく耳にする。GXとはグリーントランスフォーメーションの略称であり,経済産業省によれば,「化石燃料をできるだけ使わず,クリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた活動」のことである。
岸田文雄内閣が2023年2月に閣議決定した「GX実現に向けた基本方針」は,GX経済移行債を発行し,それを財源にして,今後10年間に20兆円規模の先行投資支援を実施する方針を打ち出した。今,日本では,この政府支援を獲得するための地域間競争や企業間競争が激化している。
競争激化の背景には,経済産業省が,22年10月に,水素・アンモニアのサプライチェーン構築に関して,向こう10年間に,大都市圏を中心に3ヵ所程度の大規模拠点と,地域を分散して5ヵ所程度の中規模拠点とを重点的に整備する方針を打ち出したことがある。水素・アンモニアは,GXで活用する「クリーンなエネルギー」の代表格とされているから,各地域,各企業は,この拠点選択レースに乗り遅れないよう,必死なのである。
世界経済評論インパクトのNo.3012(2023年6月26日掲載)の拙稿「川崎臨海部が液化水素受入拠点に選定される:GX債の『20兆円』支援獲得競争で一歩リード」で論じたように,NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構)のグリーンイノベーション基金事業で液化水素の受入地に選定された川崎臨海部は,この拠点選択レースで一歩リードした感がある。川崎と横浜を合わせた京浜地区が,大規模拠点の一つに選ばれる可能性は高い。
この京浜地区に負けず劣らず,大規模拠点に選ばれるための取組みを強めているのが中部圏である。
中部圏は,全国の人口の9.0%,面積の5.7%,企業等数の9.0%,売上額の8.2%を占める。とくに製造業については,自動車産業を中心に全国最大の集積地であり,全国シェアは事業所数で13.1%,製造品出荷額等で20.0%に及ぶ。国際港湾2港,重要港湾44港を擁し,貨物量日本一の名古屋港をはじめとして,全国の貨物量の10.7%を取り扱う。伊勢湾岸を中心に多数の火力発電所が立地し,全国の火力発電量の12.8%を占める。一方で,全国の温室効果ガス排出量の9.7%は,中部圏で発生している。
その中部圏では,中部圏水素利用協議会が積極的に活動を展開している。同協議会が進めるGX戦略は,大きく二つの方向性に分かれる。
一つは,火力発電所の燃料転換によるカーボンフリー化である。石炭火力をアンモニア火力へ,ガス火力を水素火力へ,それぞれ変えてゆくわけである。この方向性は,京浜地区のそれと同一だと言える。
一方,もう一つの方向性は,京浜地区では見られないユニークなものである。それは,中部圏内に存在する多数の工場で二酸化炭素を回収し,それを地域内で水素とマッチングして合成燃料を生成して,その合成燃料を工場で再利用するという,「カーボンリサイクル」と呼ぶべきアプローチである。必要となる水素は,中部圏内の製油所ないしLNG(液化天然ガス)輸入基地で製造し,その際発生する二酸化炭素については,CCUS(二酸化炭素回収・利用,貯留)によって処理してカーボンニュートラル化を図る。このユニークな「需要からのアプローチ」は,全国に広がる可能性がある。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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