世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
東南アジアの不安定要因としてのミャンマー情勢に関する所感
(千葉大学大学院国際学術研究院 副研究院長・バンコク キャンパス長)
2023.06.19
筆者はASEAN(東南アジア諸国連合)を含めたアジア太平洋地域の貿易・投資の分析を中心とする研究者であるが,所属先の業務として東南アジア(タイ)および近隣諸国に滞在する機会が多く,以下では東南アジアの不安定要因(経済活動には基本的に貿易・投資および国際物流の停滞など,マイナス要因として影響する)としてのミャンマー情勢に関する所感を記したい。筆者が頻繁に滞在するタイでも,ミャンマーからの出稼ぎ労働者(合法・不法ともに)を受け入れており,昨今はさらにミャンマーの国内経済の停滞(衰退)状況が隣国タイでの滞在期間にも時々実感されるのであるが(例えばタイ料理のレストランで,慣れないタイ語を話しながら,身をひそめるようにして働くミャンマー人を最近多く見かける),より大きな国家のレベルでは,ASEANの首脳会議が2023年5月にインドネシアで開催され,ミャンマー情勢にASEANとしてどのように対応するかが中心的議題の1つとなった。しかし結果として事態打開に向けた具体的な成果は示されなかった。この会合に先立つ2021年4月には,やはりインドネシアにおいてASEAN首脳級会議が開催され,議長声明では以下の5項目の合意(コンセンサス)に至っている。
- 1.ミャンマーにおける暴力行為が即時停止され,すべての関係者が最大限の自制を行う。
- 2.ミャンマー国民の利益の観点から,関係者間が平和的解決を模索するために建設的な対話を開始する。
- 3.ASEAN議長の特使が,ASEAN事務総長の補佐のもとで対話プロセスの仲介を行う。
- 4.ASEANはASEAN防災人道支援調整センターを通じて,人道的支援を提供する。
- 5.特使と代表団はミャンマーを訪問し,すべての関係者と面会を行う。
そして上述の2023年5月のASEAN首脳会議における議長声明では,ミャンマー国内での武力衝突や暴力を「深く憂慮する」とするにとどまった。ミャンマー関連の専門家によると,「クーデター」(国軍の立場からは,前年の総選挙で不正があったため,緊急に必要で法的に正当な権力掌握)の主体となったミャンマー国軍は,歴史に根差した愛国心と国家統治へのポリシーを持って2021年2月の「クーデター」を起こしたといえるのかもしれない。ミャンマー国軍は,国内の「国土統一」が主要な行動指針であり,その背後に近隣諸国との関係が大きく影響しているのかもしれない。
いずれにしても,国際社会としては,ミャンマー国軍の愛国心・国家統治のポリシーの内容を中立的に聞く対話の場,いわば「対話のための共通のプラットフォーム」が必要なのであろう。対話においては,戦中・戦後における日本のミャンマーとの関係(おそらく正負の両側面があると思われる)が言及されるかもしれず,また国軍への非難の立場から,日本の政財官界が公的に動きにくい現状もある。それでも,個人の資質としてミャンマーの和平および開発(復興)を支援すること(対話の場の確保も含め)は,少なくとも人道的立場から重要であろう。ミャンマーへの公的な働きかけが停滞している現在,筆者はアジア太平洋地域に関する一経済研究者に過ぎないが,ミャンマーの状況を注視し,微力ながら解決の第一歩としての「対話のための共通のプラットフォーム」についても模索し続けたい。
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