世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本の開発協力について考える
(静岡県立大学国際関係学部 講師)
2023.05.01
日本を取り巻く環境が激変したという認識が広がっている現在,目立ってはいないが進められているのは,日本の開発協力大綱の改正である。2015年に閣議決定された現在の開発協力大綱から日本周辺や世界の安全保障環境やその他の世界の経済・社会・政治状況の急速な変化を受けて,それを見直している。
公表された新たな開発協力大綱の原案の特徴は,日本の政府開発援助(ODA)の外交ツールとしての機能強化であり,日本の国益の増進を図るものである。現行の大綱でも国益の確保という文言があったが,改定案ではそれが増進という言葉に強められている。改定案には「互いの強みを持ち寄り,対話・協働することにより新たな解決策を共に創り上げていくことが必要である」として,従来の要請主義(相手国の要請を受けてから着手すること)から,日本自らが提案する形の提案型のODAを強化する。
このような外交ツールとして効果的に機能させることで国益の増進を目的とすることを明記する改定案から透けて見えることは,中国を意識していることである。その意識は,急速な経済成長を背景に巨額の支援をする中国への対抗心に近いものである。中国に対抗すること自体は悪いことではない。しかし,中国の真似や追随とも見えるような援助では,所詮,二番煎じであり,日本の特色ある開発協力ではない。
日本の特色のある協力とは何か? それは,日本にはあって,中国にないものを使用することである。つまり,日本は中国に比べると,途上国支援の長い経験から得られた知見や知識の蓄積がある。これを有効に活用した開発協力を実施してさらに強化すべきである。この具体策の一つは,現行の開発協力大綱とその改定案の両方に実は明記されている。それは,三角協力の強化である。日本に蓄積された豊富な知見や知識を活用して,他の国々と一緒になって支援するのが三角協力であり,これを強化することが日本の独自の開発協力となる。それは,三角協力を通じて,日本と連携する国を増やすことができる。これは一帯一路など中国が単独で実施している援助ではできないことである。
もう一つの具体策はODAの配分分野のメリハリである。つまり,日本が中国に比べて,得意な分野に配分を集中すべきである。つまり,日本は法制度整備支援,教育や医療・保健分野などのソフト・インフラへとシフトすべきである。それは,中国の一帯一路に代表されるように,中国の支援は道路,港湾,鉄道,発電所などの経済インフラ,つまり,ハード・インフラに偏っているからである。日本は財政難もあり,限られた予算でODAを実施している中で,配分分野の選択と集中は必要である。
日本は中国と比べて得意なこと,つまり比較優位があることに資源や労力を投入すべきである。援助の実施体制として,三角協力を強化し,援助の配分分野についても,ソフト・インフラへと重点を移すべきである。これらの具体的な実施状況を改善しない限り,どれだけ開発協力の理念である開発協力大綱を変更しても,現状は変わらず,日本の特色ある支援はできずに,中国を意識した援助にならざるを得ない。
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