世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
夢と希望をもって子育てのできる少子化対策を
(高崎経済大学 名誉教授・元(公社)日本地理学会 会長)
2023.04.24
経済支援に偏る少子化対策に疑問
人口減少が日本の将来に暗い影をもたらすとして,少子化対策がクローズアップされている。岸田政権はこども家庭庁を発足させ,児童手当の所得制限撤廃や出産への公的医療保険適用,育休給付などの少子化対策に取り組み,東京都をはじめ各自治体も様々な経済支援策を競いつつある。しかし,子育ての厳しさ,難しさを指摘する報道や指摘が世の中に蔓延し,子育てに夢を持てない若い人々が多いのではないであろうか。こうした環境の中で,現在検討・実施されつつある経済支援に偏った少子化対策が十分な効果を発揮するのか,疑問を感じる。
少子化対策や経済支援策などを検討する過程で,子育てには教育費等に巨額の費用と様々な苦痛を伴うという情報が社会に溢れる。また,少子化で将来の日本は社会・経済状態が悪化するので,国家社会のために子供を増やす必要があるとの情報も流布する。そのためであろうか,国家社会のために子育てで苦労するより自由に金・時間を使える生活を楽しみたいという意識の若い人が多くなっていると感じる。そして子どもを持たない既婚女性の方が,子どもを持つ既婚女性より幸福度が高く,その差は年々開いているという。このように考える人々に経済支援中心の少子化対策が大きな効果を持つとは考えられない。
夢と希望を持って幸せな人生を築ける少子化対策や政策を
現在の生活への日本人の充足感は先進国の中でも高い方であるものの,将来良くなると考える人は最も少ないという。また,20~30歳代の若い人には,大企業勤務の人でも貧しく不幸な日本に生まれたため日本に生まれて良かったと思ったことがないという人が少なからずいる。これは高度経済成長以前の戦後日本や広く海外の状況を充分に認知していないためといえる。また,日本の経済成長が過去30年ほど緩慢で,給料は上がらず,世界における地位が相対的に低下し,かかる悲観的報道に日夜接するためであろう。だが,日本は国際的に見て社会基盤も整備された豊かな先進国である。
現在では結婚や子どもを望まない人など家族に対する価値観が多様化しているが,子どもを望む人が収入や世帯環境にかかわらず,希望する人数を産める社会にする必要がある。結婚や子どもを持つことへの様々な考えを尊重したうえで,子育ての苦痛や経済的・時間的束縛の面を強調しすぎることは避けるべきと考える。子供を持って感じる幸せは多々ある。子供を育てるために苦労することに生き甲斐を感じることも多い。経済的に豊かであっても,係累を持たないゆえに不安な日々を送る高齢者は多い。高齢になればICT関係や日常生活面で,心身ともに子どもに支えられる幸せを感じる場面が増える。
福祉国家として真に経済的に厳しく,子育てに苦しむ人への経済支援を怠ってはならない。しかし,幅広い経済的支援や経済支援に偏った少子化対策によって将来世代に巨額の財政負担となっては本末転倒である。子どもを生み育てることが真に若い人たちの将来の安心と夢のある人生の構築に繋がる少子化対策・政策になることを念じている。
日常的に何ら問題ない豊かな家庭であっても,保護者の入院などで突然,保育支援を要する事態発生もある。そうした際に,速やかに利用できる支援システムの整備,新しいコミュニティの構築など,効果的な財政支出が求められる。また,幸福感を感じる国にするために,誰もが生涯にわたり高度で質の高い教育を受けられる環境整備や教育システムへの改善など,子育てに夢と希望を持って幸せな人生を築ける少子化対策や政策にする必要がある。そのためにも目先の効果を狙ったバラマキ政策にならない,広汎な視点を持ったメリハリある少子化対策の構築を求めたい。
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