世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2909
世界経済評論IMPACT No.2909

技術と金融を重視した中国・国務院機構改革

結城 隆

(多摩大学 客員教授)

2023.04.03

 中国で,3月16日,国務院の機構改革が発表された。国務院の機構改革は,1978年の改革開放以来持続的に行われてきた。部(日本でいえば省)の数は1981年には100余りあったが,統廃合を繰り返し2008年には27部となった。習政権が発足してからもこの傾向は続き,現在では21部になっている。また,今回の国務院機構改革により,職員数も約5%減ることになるという。リーンかつ課題即応体制の構築を目指したものといえる。

 まず課題即応型であることについて見る。目下,中国が抱える喫緊の課題は,技術と金融そして少子高齢化である。

 米国主導で行われている対中デカップリング,とりわけ昨年10月にバイデン政権が施行した半導体法により,AIなどに使用する最先端半導体技術導入に厳しい制限が課されるようになった。このため技術面での自立自強が喫緊の課題となっている。これに対応すべく科学技術部が解体された。科学技術部が管理運営していた様々な技術開発事業が分野別に主管官庁に移行される。農業に関わる部門は農村・農業部に統合され,技術戦略部門は国家発展改革委員会,環境技術は生態環境部,医療・医薬品・バイオテクノロジー関連部門は国家衛生健康委員会,ハイテク工業団地設立の企画や技術導入に関わる事業は工業信息部にそれぞれ吸収される。科学技術部は存続するが基礎研究に特化する。

 次に,不動産業界や地方政府の債務問題にともなう金融リスクの抑え込みが図られる。とりわけ地方政府の債務問題は極めて深刻といわれる。このため,銀行保険監督管理委員会と国務院金融安定化委員会が廃止され,より広範な権限を持つ国務院直属の国家金融監督管理総局が新設される。これと併せ,人民銀行の地方支店も整理統廃合される。人民銀行の支店は各省一行となる。ただし,深圳,大連,寧波,青島,厦門および北京・上海は市レベルの支店を維持する。支店,事務所を集約することにより調整・連絡業務を簡略化し,金融政策とその管理をより効率的かつ機動的に行うのが目的と思われる。左記と併せて証券監督管理委員会も国務院直属の機関となる。とくに,企業の株式公開や債券発行に対する管理監督が強化される。この機構改革に伴い人民銀行,国家金融監督管理総局および証券監督管理委員会の職員は国家公務員となり同等の処遇を受けることになる。

 少子高齢化問題に対する取り組みも強化される。最優先されているのが高齢者の年金・医療の充実である。これらの事業が民生部に集約される。民生部は日本の総務省に該当する組織だが,文字通り「民生」を主導的に担う部署となった。高齢化対策としては,全国老齢工作委員会が民生部に吸収され本部組織となった。これによって高齢者対策に関わる権限強化と実務能力が拡充される。また,従来国家衛生管理委員会が管轄していた高齢者関連医療保険事業部門も左記と併せて民生部に移管される。また,民生部は新たに少子化対策も担うことになる。

 デジタル社会対応型の体制構築も図られた。国務院の各部門がそれぞれ管理しているデータを集約し,横串によりデータ収集,分析,管理および保護を行う体制構築である。このためデータ管理庁が新設された。管理が強化されるばかりでそのメリットが見えてこないという批判も実業界から聞こえてくるが,そもそも,巨大テック企業とそれがつくるエコシステムに蓄積されている膨大なデータの管理が従来極めて杜撰だったという事情が背景にある。まずは保護と管理を強化しようというわけだ。その前振りが2021年から行われた巨大テック企業に対する規制強化だったとも言える。

 国務院の機構改革と併せ,党と国務院との関係も明確にされた。党の企画・監督・管理機能とそのための権限を強化し,国務院とその傘下の各部門が実務を担うという関係である。李強総理が習近平国家主席の子飼いの部下であるという関係も左記を担保しているといえる。党と国務院が発出した「党および国家機構改革方案」を見ると,まず,党中央に,新たに①中央金融委員会,②中央金融工作委員会,③中央科学技術委員会,④中央社会工作部,⑤中央香港マカオ工作弁公室,⑥全人代常務委員会代表工作委員会が新たに設立される。①と②は,様々な金融問題を党の指導のもとに解決することをミッションとしている。③は国家の科学技術戦略を統括する。④は少子高齢化問題,就業問題,民営企業部門の新興,そして貧困問題に取り組む。⑤は一国二制度に基づく香港とマカオの管理を担う。従来は国務院の香港・マカオ弁公室がこの事業を担任していたが,この組織はそのままとし,党の関与を更に強化するのが目的と見られる。⑥は「ゴム印会議」と揶揄される全人代の質の向上を狙ったもので,全人代代表の選任の在り方,代表の見識の向上を図ることを目的としている。

 変化の時代にあって必要なことは,目的とそれを実施するための指揮命令系統が明確であること,組織・体制が実務重視でかつ即応力を持つことだと思う。5年振りに行われた党・国務院の機構改革は党主導体制のもと国務院の担当部署のミッションを明確にしたものと思う。「省益」など歯牙にもかけない「国益」重視に基づく実務主体の改革には刮目すべきものがある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2909.html)

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