世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
ゲームチェンジャーとしての革新的メタネーション技術:社会実装検討委員会発足の意義
(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)
2023.03.20
2022年12月20日,革新的メタネーション技術社会実装検討委員会(以下,「共同委員会」と表記)が発足した。この共同委員会は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDON)のグリーンイノベーション基金(GI基金)事業において,大阪ガスと東京ガスがそれぞれ開発に取り組む革新的メタネーション技術の社会的実装を促進するため,両社が共同で設置したものである。筆者は,同委員会の委員長に指名された。
カーボンフリーの水素とCO2(二酸化炭素)とから都市ガスの主成分であるメタンを合成するメタネーションは,都市ガス産業のカーボンニュートラルをめざす施策の柱である。合成メタン(e-メタン)であっても燃焼時にはCO2を排出するが,製造時にCO2を使用することによって相殺されると考えられ,カーボンニュートラルとみなされるわけである。
大阪ガスと東京ガスは,既存技術のサバティエ反応(CO2+4H2→CH4+2H2O)を用いるメタネーションの実証運転をすでに開始しており,いずれも30年には,自社が供給する都市ガスの1%をe-メタンに置き換える予定である。そして,両社もメンバーになっている都市ガス産業の業界団体である日本ガス協会は,カーボンニュートラルが実現される50年には,都市ガスの90%がe-メタンになっていると見込んでいる。
この30年の1%から50年の90%への「飛躍」は,既存技術の延長上では実現できない。飛躍を達成するためには,サバティエ反応を超える革新的メタネーション技術の社会的実装が必要不可欠となる。このように考えて,大阪ガスと東京ガスは今回,共同委員会を設置したのである。
大阪ガスが開発を進める革新的メタネーション技術は,SOEC(固体酸化物形電気分解セル)メタネーションである。SOECは,再生可能エネルギー由来の電力により水蒸気をCO2とともに約700℃の高温で電気分解して水素とCO(一酸化炭素)を生成し,そのうえでさらに触媒反応によってe-メタンを製造する技術である。
東京ガスが開発を進める革新的メタネーション技術は,電気化学デバイスと触媒を用い効率性にすぐれるハイブリッドサバティエと,電気化学デバイスを使い設備コストを大幅に低減するPEM(固体高分子膜)CO2還元とである。いずれも低温での稼働が可能であり,熱マネジメントが容易(PEM CO2還元では熱マネジメントが不要)であり,起動停止が簡単になるというメリットをもつ。
現状では,メタネーションには,(1)コストが高い,(2)使用時にCO2を排出する,という二つの問題点がある。大阪ガスと東京ガスが取り組む革新的メタネーション技術は,これらの問題を解決に導く可能性を有している。
両社の革新的メタネーション技術に共通する最大の特徴は,水素とCO2を使うサバティエ反応とは異なり,水とCO2からe-メタンを合成するため,水素調達が不要になる点に求めることができる。また,革新的技術によりエネルギー変換効率が向上するため,投入する再生可能エネルギーが削減されることの意味も大きい。これらの特徴は,(1)のコスト問題を解決するうえで,重要な突破口になる。
既存のサバティエ反応によるメタネーションが高コストになるのは,グリーン水素を得るために行う水の電気分解で使用する,再生可能エネルギー由来のグレーン電力が高くつくからである。グリーン電力の価格は,日本国内に比べて海外の方が,総じて安い。したがって,サバティエ反応によるメタネーションをめざすプロジェクトは,いずれも海外で事業を展開することを想定しており,グリーン水素もグリーンe-メタンも海外で生産されることになる。グリーン水素の場合には,日本に輸送するコストがかさむことも避けられない。
しかし,それでは,日本の多くのメーカーが困ってしまう。現在,製造業の世界では,「サプライチェーンのカーボンフリー化」が声高に叫ばれており,GAFA(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル)やソニー,やがてはトヨタなどが,CO2を排出する工場からは部品を受け取らない時代が,まもなくやってくる。メーカーにとっては,工場で排出されるCO2を回収し,オンサイト(工場内)ないし地域でメタネーションを行ってカーボンフリー化したうえで工場で再利用することが,生き残るための不可欠の条件となる。その際,海外で生産され輸入される水素は,高すぎて使えない。メーカーにとって水素なしにメタネーションを実施することが焦眉の課題となるが,この要請にぴたりと応えるのが,水とCO2からe-メタンを合成し,外部水素を必要としない革新的メタネーションである。このいわばCO2を循環させる方式は,工場でのCO2回収をともなうから,使用時にCO2を排出するというメタネーションの(2)の問題を,部分的に解決する。つまり,革新的メタネーションは,現在メタネーションが抱える二つの問題を解決に導く可能性を有しているのである。
22年12月に開催された共同委員会の第1回会合には,主要な都市ガス会社だけでなく,さまざまな研究機関(個人の有識者を含む),メーカー,商社,金融機関などから,多様なメンバーが参集した。全員が積極的に発言し,活発な意見交換が行われた。会場には,革新的メタネーションがカーボンニュートラル化への「ゲームチェンジャー」となることへの期待感が満ち溢れていた。
- 筆 者 :橘川武郎
- 地 域 :日本
- 分 野 :国内
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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