世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2868
世界経済評論IMPACT No.2868

2年目に入った露ウ戦争:第3次戦争の危機か?

坂本正弘

(日本国際フォーラム 上席研究員)

2023.03.06

1.露ウ戦争1周年をめぐる激しい動き

 露ウ戦争勃発から1年となる今年2月24日前後の主要各国の動きは激しかった。プーチン大統領は,21日の「年次教書演説」で,「戦争を始めたのは西側だ,西側の制裁は効いていない,敗北はあり得ない,長期戦も辞さない」と虚偽に強気であり,22日の「祖国防衛者の日」でも20万人を集めて演説した。プーチン氏の支持率は80%に上る。

 他方,ゼレンスキー大統領は24日,「徹底抗戦し,年内勝利に全力を尽くす」としたが,同氏の支持率は9割を超える。これより先,2月17-19日のミュンヘン安全保障会議で欧米の首脳が集まり,ウクライナ支援の強化が表明された。注目は,バイデン大統領が20日,キーウを電撃訪問し,米ウの強い結束を示し,続く,21日,ワルシャワで,大観衆を前に,「ロシアのウクライナへの勝利はない,専制主義に勝つ」と演説したことだ。

 中国は24日12項目の和平提案を行ったが,これに対し西側は,ロシアを利するものとしたが,ゼレンスキー大統領は習主席との対話を表明し,ロシア側は検討に値するとした。3月1日開催のG20外相会議はウクライナ問題をめぐり紛糾し,インドが調整に苦悩した。

2.重い消耗戦の続く東部戦場

 露ウ戦争は,①2022年2−3月のキーウ攻防戦でのロシアの敗退,②5−8月のロシア軍の再編,猛攻,③9−11月のウ軍の東部,南部での反撃,優勢の局面ののち,④12月以降の東部での激戦に区分される。現状は,ロシア軍は,戦場での大きな損失を出しながら,攻撃を続け,東部バフムトをめぐる攻防では,ウクライナ軍も戦況の厳しさを認めている。両者,激しい消耗戦の状況で,ウクライナ側は,全土がミサイル攻撃にさらされ,インフラに大きな損害が出る状況で,兵器の調達は米国をはじめ西側の供給に依存している。他方,ロシアは,西側の制裁があるとはいえ,抜け穴も多く,兵器の生産もかなりの水準に回復している状況である。したがって,プーチン氏は戦争の長期化により,消耗戦の有利を勝ち取る作戦に出ている。ウクライナは,上述のとおり西側に攻撃兵器の供給を求めているが,必ずしも十分ではない。今後,供給される戦車などの蓄積を待って,春からの攻撃を計画し,年内の領土回復を期待している。米国や西欧諸国も,国内での援助継続への消極的な状況もあり,兵器の供給と短期戦の優位を狙っているが,戦争の長期化の可能性もある状況である。

3.国連特別総会決議に見る露ウ戦争への反応

 2月23日,国連特別総会でのロシア軍撤退要求決議は,「賛成141,反対7,棄権32,無投票13」で採択された。国連安保理が機能しない状況で,国連特別総会での決議に拘束力はないが,国際世論としての力はある。第1回の決議は2022年3月2日ロシアの侵攻非難決議で,「賛成141,反対5,棄権35,無投票12」で内容は今回と酷似している。国際社会のロシアへの反応の厳しさは続いているともいえるが,棄権・無投票が45か国に上るのを考えると,厳しさは限界があるといえる。

 今回の141の賛成には,欧米日豪など50近い先進国が含まれる。反対の7か国は,露,ベラルーシ,北朝鮮,エリトリア,シリア,マリ,ニカラグアでロシアとの関係の深い国である。棄権・無投票の45国には,旧ソ連7か国,中国,インド,イランなどアジア10か国,キューバなど中南米7か国の他,20か国を超えるアフリカ諸国が含まれる。反対,棄権,無投票には,ロシアが兵器や穀物供与で便宜を図っている国が多いが,特にアフリカ諸国の多さが目立つ。ロシア・ラブロフ外相の頻繁なアフリカ訪問や中国の影響も大きい。

4.西側と,中露枢軸群の対立激化

 残酷な,大規模な戦争の継続・長期化は,各国の対立を,群として深化,鮮明にしている。ウクライナと地続きの欧州安全保障の脅威を深め,フィンランドとスウェーデンがNATO加盟を申請した。欧州での危機は,アジアに伝播し,台湾危機が浮上しているが,北米,欧州,日本,韓国,豪州が,軍事力を強化し,共同の演習を行っている。他方,ロシアと中国は枢軸を強め,共同演習を行っているが,ベラルーシ,北朝鮮が支援に加わり,イランもドローン供与など,中露との関係を深めている。2022年9月のロシア極東軍事演習「ボストーク2022」には,露,中,ベラルーシなど旧ソ連諸国,ラオス,シリア,ニカラグア,インドなど14か国が参加した。

5.第3次大戦の危機

 以上の状況で,欧州での国際会議では第3次大戦への危機も議論されるという。戦争が長期化し,核の脅威もある中で,対立国群の形成は危険である。第1次大戦は,英,仏,露の連携に,独,墺,トルコの対立国群があり,戦争はセルビアでの墺皇太子殺害という局地から起こった。主要国間からではない。第2次大戦もポーランドの侵攻である。今回は,露ウ戦争がすでに起こっている状況である。林外相のいうように,残酷な侵略者が得をする平和は許せるものでないが,第3次大戦への危機も避けなければならない。世界は,今後,難しい局面に入ることになる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2868.html)

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