世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2862
世界経済評論IMPACT No.2862

インバウンドの改善に向けた動き

小野田欣也

(杏林大学総合政策学部 客員教授)

2023.02.27

 日本の外国人旅行客数は2019年の3188万人が2020年411万人,2021年24万人,2022年は383万人だった。

 新型コロナの影響があるため2020年~2022年のデータは利用が難しい。そのため2019年のデータを用いて,外国人観光客数を訪問した国の人口で除すると,数値が高いのは香港3.13,シンガポール2.56,スペイン1.79,フランス1.36,オーストリア1.22,イタリア1.07などとなっており,アジアの人口小国を除くとヨーロッパが圧倒的に多い。EU加盟国のため通貨の問題も少なく,加えて国境が接する国が多く,列車や車で移動する事も出来るためであろう。

 一方,人口大国では中国0.05,インド0.01,ブラジル0.03,アメリカ0.24,日本0.25などとなっており,人口数が影響しておしなべて小さい数値となっている。日本とアメリカは数値が近い。また,国際観光収入を受け入れ国のGDPで除すると,両国とも0.009で一致する。他方,シンガポール,香港,マカオなど都市国家的な国を除くと,アジアの中ではタイ0.111,インド0.011,韓国0.013,台湾0.024,マレーシア0.054,インドネシア0.015,ベトナム0.036,フィリピン0.026などとなっている。GDPが日本と比べて小さいことの影響を考慮しても,日本はGDP規模に比して国際観光収入がアジアの中で相対的に低い傾向がある。タイはロシア観光客を受け入れていること,東南アジア諸国はおしなべてロシア・ウクライナ紛争に中立的な立場をとっている国が多いことなど,ここでは議論せず,インバウンドだけを考慮したい。

 報道によると「観光立国推進基本計画」の改定議論が進められており,方向性としては,今までの観光客人数拡大から観光消費額増加を主目的とするとのことである。同素案では,外国人旅行者一人当たりの消費額の目標を2025年に20万円とすることなどをめざしている。

 ところで観光庁による「訪日外国人消費動向調査」2022年10−12月期(一次速報)では,この期間の訪日外国人一人当たり旅行支出は21万2千円であるため,瞬間的ではあるが目標値は達成している。円安やコロナ禍のリベンジ消費の影響もあろう。

 日本を訪れる外国人観光客にはホテルのスウィートルームを長期滞在する富裕層から,爆買い旅行者,バックパックの若者・学生まで様々である。外国人旅行客の観光消費額拡大には,富裕層への宿泊・食事提供の高級化,爆買いへの十分な商品提供,陶器・焼き物作りや日本の山歩きなど日本文化や自然鑑賞など,アイデアは様々あろう。こうした中で最も重要なのはガイドの語学能力である。単に外国語が話せるだけではだめで,例えば陶器を作るための土の説明,土のこね方,ろくろなどの利用方法など,外国語で説明できる人はいるだろうが,海外旅行客の増加を望むならば,語学+専門知識のガイド育成が急務である。加えて地方観光地での電子マネーやカード決済などのキャッシュレス化,無料Wi-Fiなど通信環境の整備,AIを利用した多言語同時通訳など,早急な課題も多い。

 これからインバウンドは日本経済のバッファー要因になることは間違いない。海外資源依存型の日本経済にとって,円安による資源輸入増加が輸出拡大を上回り,海外所得収支でも補えず,国際収支の赤字も散見されるこの頃,インバウンド消費は収支改善の一つの切り札である。国際収支発展段階説ではないが第5段階(成熟した債権国)の半ばを過ぎた日本にとって,インバウンド消費はこれからの日本経済を支える有力な鍵となる。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2862.html)

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