世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
貿易円滑化とASEANシングルウインドウ(ASW)
(金沢星稜大学経済学部 教授)
2023.02.06
筆者は本コラムで近年ASEANシングルウインドウ(ASW:以下ASW)について記述した(No.2356及びNo.1445)。さらに2017年にさかのぼるが,No.810において日本のシングルウィンドウであるNACCS(Nippon Automated Cargo and Port Consolidated System)のミャンマーへの供用についてふれた。本稿においても最近の動向を踏まえつつASWについて考察したい。
ASEAN事務局HPによればASWの定義は,加盟国間の国境貿易関連文書の電子交換を可能にすることにより,ASEAN経済統合を促進する地域電子プラットフォームである(注1)。国連欧州経済委員会(UNECE:以下UNECE)によると,勧告第36号をはじめUNECEは,特にシングルウィンドウなど貿易円滑化について触れてきた。シングルウィンドウ間の相互運用性等において積極的に推進を支援するとしている。それに加えOECDは,貿易書類の簡素化,貿易の自動化,通関手続きのみによって,各国が貿易コストを約5%削減できると推定しているとUNECEは記述している(注2)。FJCCIA(ASEAN日本人商工会議所連合会)とJETROからASEANに対する要望と提案(2022年7月11日)によれば,ニューノーマル下での貿易円滑化の実現として,ASW関連においては次のような要望が出されている(注3)。第一にASWを全品目かつすべての国際国境での運用,第二にASWを拡張・高度化し,企業負担を削減,第三に,ASEAN税関申告書(ACDD),電子植物検疫(e-Phyto)証明書,電子動物保健(e-AH)証明書,電子食品安全(e-FS)証明書など,他の貿易関連文書の電子交換のためのASWシステムの拡張,第四に,ASEAN の多くの国境税関や荷揚げ港においてASWが活用できるはずであるが現実には使用されていないといった意見等が出されている。
このようにASEANに進出している日系企業の要望という点においても貿易円滑化のASWには期待の度合いが高いといえる。ジェトロ(2022)によれば,ASEANをはじめアジア諸国へ進出している日系企業の経営上の課題の上位項目として「通関等諸手続きが煩雑」が挙げられている(注4)。この改善という点においてもASWの進展は喫緊の課題でもある。メガFTAであるCPTPPやRCEPにおいてCLMV(カンボジア,ラオス,ミャンマー,ベトナム)をはじめとした配慮で各種の例外規定がある。ASEANすべてにおいて同じように運用するという点で困難な点も多いことは予想される。しかし,今後の進展に在ASEAN日系企業も期待している。ASEAN域内国においては先発している国が積極的に協力を行い,域外国においても可能な限りサポートを行うことが望まれる。今後の推移を注意深くウォッチし大いに期待したい。
[注]
- (1)ASEAN事務局HP:Symposium on ASEAN Single Window targets expanded trade for more inclusive growth.2023年2月1日最終アクセス
- (2)国連欧州経済委員会(UNECE)HP:UN/CEFACT adopts three policy recommendations for trade facilitation.2023年2月1日最終アクセス
- (3)「FJCCIAとJETROからASEANに対する要望と提案(2022年)」(2022年7月11日)。2023年2月1日最終アクセス
- (4)日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部(2022)『2022年度 海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)』日本貿易振興機構。2023年2月1日最終アクセス
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