世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2801
世界経済評論IMPACT No.2801

マーケティング戦略の流れ

村中 均

(常磐大学 教授)

2022.12.26

 マーケティングとは,売買を成立させる活動すなわち市場を創っていくことである。さらに説明してみると,それは,企業が顧客のニーズに合った製品(サービスを含む)を開発・提供し,顧客に満足してもらうことであり,企業に利益をもたらすものといえる。

 マーケティングは,他社との競争を前提とし,差別化を行い,さらに様々な顧客のニーズに応えることで,多様な製品を生み出し,顧客側の選択肢を増加させ,物質的な意味で社会を豊かにしてきた。

 企業の市場に対する考え方や,その接近の方法を,「マーケティング・コンセプト」と呼ぶ。企業が作れるものを売るという①製品志向(日本では1960年代),消費者に対して積極的な販売促進を行う②販売志向(日本では1970年代),現代マーケティングの基本的な考え方となっている顧客のニーズを出発点とする③顧客志向(日本では1980年代),ICTの進展を背景に,顧客との長期的,継続的かつ双方向の関係性(リレーションシップ)を重視した④関係性志向(日本では1990年代),企業の利益=顧客の満足=社会の利益(福祉)という関係を実現していこうとする⑤社会志向(日本では2000年代),ソーシャルメディアの普及を背景に,顧客の自己実現を支援・促進する製品を開発・提供していく⑥自己実現志向(日本では2010年代以降)というようにマーケティング・コンセプトは進展してきている。

 そもそも,資源は無限にあるわけではない。現在では,企業は,社会的価値そして人間の精神的価値を重視するようになってきている。そういったことを前提としながら,企業は,効率的かつ効果的なマーケティングを実行していかなければならない。

 現在,コロナ禍,ロシア・ウクライナ戦争,世界経済不安という状況にある。状況に適応し,さらに状況そのものの創造につながる,長期的な方針や計画となる戦略が必要であり,戦略的な論理を踏まえたマーケティングの実行体系,すなわちマーケティング戦略が,このような先行き不透明な状況であるからこそ,企業にとって重要となっている。

 そこで,今一度基本に立ち返り,マーケティング戦略の流れを捉えてみると,企業理念(現在ではパーパスとも呼ばれている)・ビジョン(中長期目標)→市場分析(環境分析)→企業ドメイン(事業領域)というマーケティングの方向性の選択を通じて,企業は,「誰に」「何を」「どのように」売るのかを明確にできる。そして,より具体的に,「誰に」については,対象とする市場はどうなっているのかというセグメンテーション(市場細分化)を行い,市場の標的をどこにするのかというターゲティングと,自社製品の位置付けや差別化をどうするのかというポジショニングを設定していく。「何を」については,製品と価格を決定し,「どのように」については,流通と販売促進を決定し,それらを実行していくことになる。

 上記の流れは,マーケティングを学ぶ上での順次性や関連性という点においても,すっきりとしている。筆者は,そのことを踏まえて,学生やビジネスパーソンをターゲットにし,企業活動そしてマーケティングの役割を概念的に定義することから始め,最新のトピック(ダイナミック価格,サブスクリプション,ソーシャルメディア等)を含んだ,平易な文章と具体的な事例で説明をするマーケティングの入門テキストの執筆を行った。

 マーケティングの考え方が未だよく分からない,あるいはマーケティング戦略の基本的な内容に興味のある方は,1月末に発行される隈本純・村中均『すっきりわかるマーケティング戦略』文眞堂,2023年,という小著を是非手に取って読んでいただきたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2801.html)

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