世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
JOB型人事拡大と海外型専門人材開発推進の提言:高給高度専門職人材へ早期転換を!
(SPCコンサルテイング株式会社Lab 所長)
2022.12.26
世界各国で「学び直し」が進んでいるが,本稿では世界と日本の高度専門人材開発の格差を解説し,日本企業の早急にとるべきアクションアイテムを提示する。
1.名刺交換からの気づき
2000年以降,世界のビジネスパーソンと名刺交換を通して「焦り」を感じていたことがある。彼らの名刺には,JOB型人事社会らしく専門能力を示す取得学位が記されている。
2010年までは一つの修士だったが,それ以降は二つの修士や一つの博士など高学歴化が顕著になっている。特にディープテック最前線の北米大陸ではその傾向が強く,EUでも同様の傾向がみられる。要すれば今や世界ではダブル修士がスタンダードとなっている。
学位内容だが,一つの修士号は文系では法学,経済。理系ではIT,生物化学等の専門学位で,他方はMBAで管理職登用目的という構成になっている。企業勤務者やスタートアップ経営職では6~7割が修士もしくは博士号を持ち,EUや米国ではこの20年間でこれが常態化している。つまりJOB型人事制度下の専門職では修士相当の能力要件が必須であり,職務遂行の難易度が増していることを示している。
他方,日本企業の「会社員」と名刺交換すると,大卒が8割程度と変わらないが,修士取得者となると技術系などで少数派である。文系ではMBAの取得者が多いがひと頃ほどではない。どうして大学院に進学しないのか,その理由を尋ねると,「学位を取っても給料が上がらないから」が,ここ20年間の教育阻害要因となっている。
2.国内失敗事例
ディープテック市場では現在DXを導入中だが,同時にAIも加わり,次は量子分析が想定されている。そのため日本でも職務内容が高度化しており,人材の能力のアップグレードが急務で,現状維持のままでは日本のビジネスは未来が切り開けない危機が迫っている。そこで既存社会ではどんな失敗事例があるのか,具体例を紹介し危機感の共有を図りたい。
1)学び直し成果が乏しい
コロナ禍中で在宅勤務による学び直しが進んでいるが,未だその成果は乏しい。一番の原因は統計学等の基礎力が大卒では足りていないためで,大企業でも DX 化はまだ半分に満たず,4割程度となっている(出典:IPA,日経記事)。また読解力や論理構想力でも正しい思考・考察プロセスが形成できていない(参考図書:光文社新書「映画を早送りで見る人たち」)。
2)管理職の専門能力不足
日本企業の学び直し対象となる社員は文系が圧倒的に多く,数学的思考を苦手とするケースが多い。管理職登用では経営学修士が必須要件でないため統計学の知識も不足しており,DX分析と理解にも時間がかかっている。
3)各専門分野の新事業企画力不足
日本企業の新事業分野では,社内に専門人材が圧倒的に不足しているため,事業企画力が貧弱に感じる。コンサルなど外部企画者に頼ることが多いと企画が総花的になり,各企業の持ち味を活かした市場の差別化が難くなる。
以上のことから,今後の企業における収益拡大のためには既存人材の能力底上げが急務と言える。
3.期待効果
自己投資しても給料が上がらないという人々が社会人進学した場合の実証事例を紹介したい。
MBA取得者の20年後の状況を調べた結果では,修士課程の学費として2年間で約200万円を要したが,修士号取得者の多くが業務成果を上げ,昇進昇格を果たし,役職定年後も同額賃金で専門職として契約したという事例もあり,十分に投資費用が回収できた。また博士課程進学の場合でも,学費総額は5年間で約500万円になるが,学位取得の有無に関係なく投資回収は十分と回答している事例が国内海外双方で多数を占めている(SPCLab独自調査)。
4.結論
今の時代は転職せずとも副業を持つことも可能であり,専門分野での職務遂行が可能であると,また自己裁量で専門的な仕事の獲得機会が増えれば収入向上も図れる。人生100年時代のキャリアライフでも十分やっていけるため,能力研鑽にはドンドン自己投資をしていただきたい。最後に一番言いたいことは,あまた投資がある中で,自己教育投資ほど自己管理が図れ確実に実を刈り取れる案件は他にはない。ゆえに自己投資は惜しまず,最大限に自分の能力を開花させていただきたい。
5.まとめ
最後に締めとして,個人の教育阻害要因を解決するため,日本企業のアクションアイテムを記したい。
1)人事制度改革
一番に社員の高度専門職化の阻害要因となっている既存メンバーシップ型人事制度を縮小し,新事業分野ではJOB型人事導入と拡大を促したい。
2)人材開発改革
既存社員に対し高度専門職の能力要件を再定義し提示する。方法は社会人大学院進学か専門科目履修とし修士レベルの能力担保を標準とする。専門分野の知識能力がある高度職業人材でなければ成し遂げられない新規業務が増えているため,大卒社員には積極的な自己投資を促し能力向上を図り,新事業転換では確実な職務遂行を義務付け,人事コストでは差をつける。
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