世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2794
世界経済評論IMPACT No.2794

世界を荒廃させる拝金主義と権威主義:利権政治の寄せ集めに堕した日本は,両者の草刈り場

藪内正樹

(敬愛大学経済学部経営学科 教授)

2022.12.19

 W杯カタール大会は,欧米参加国にとって悪夢の大会となった。出稼ぎ労働者に病気や事故による死者が多発しており,国際人権団体による救済基金の設立勧告に対し,カタール政府がフェイクニュースだとして拒否し,非難の声が上がっていた。そして,同性愛を禁忌とするイスラム法に従い,転向療法が強制されていることについて,カタール政府関係者がドイツのテレビ番組で「同性愛は心の傷だ」と述べ,欧米のチーム,サポーターから批判の嵐が巻き起こっていた。

 カタール開催が決定された2010年にFIFA(国際サッカー連盟)会長だったプラッター氏と副会長のプラティニ氏は,2015年にカタールからの収賄容疑でスイス検察から告発された。今年7月にスイス連邦裁判所は無罪判決を言い渡したが,スイス検察は10月に控訴。大会直前の11月初め,プラッター氏は「カタールでのW杯は間違いだった」とスイス紙に発言した。「我々はロシア大会の次はアメリカと望んでいたが,欧州連盟会長だったプラティニ副会長が,その後カタールへ戦闘機売却などの関係を深めたサルコジ・フランス大統領から懇願され,他の欧州3カ国に依頼して4票を米国からカタール支持に変えたことで逆転した」と述べた。

 さらに12月10日,欧州議会で「カタールはW杯開催を機に人権状況は改善している」と報告したギリシャ出身のカイリ副議長を,ベルギー検察が収賄容疑で逮捕。欧州議会は同副議長を解任した。

 本稿掲載日の未明に決勝戦が行われる。大統領が開催地決定に関与したと言われているフランスが決勝進出した。既に大スキャンダルとなったW杯カタール大会は,今後,何と呼ばれることになるだろう。

 カタールは,2017年にイランとの接近やイスラム同胞団への支援を理由に湾岸諸国から断交されたことがある。2021年に国交は回復したが,イスラム過激派やアラブ諸国の反政府勢力を軍事援助し,反米を宗教的使命としているイランに近いことに変わりはない。つまり,宗教的権威主義が,自由・民主・人権の国々に蔓延る拝金主義を利用して,工作を行なっているのだ。

 拝金主義は,主義主張や社会正義に構わず私利私欲に走る。だから,自由・民主・人権主義の社会に蔓延る拝金主義は,権威主義側から浸透工作するパイプとなる。

 宗教権威を権力の裏付けとして使う体制では,人間が神の名の下に人間を支配するので,特権層の私利私欲と無関係ではなく,大衆への圧政となることを免れない。共産主義も同様で,経済成長の利得を分配できるうちは良いが,パイを増やせなくなると,パンデミックの恐怖や侵略者という敵なしには,圧政を正当化できなくなる。

 自由・民主・人権主義の社会で,拝金主義が主導的地位を占めることはあり得るだろうか。あり得るだけではなく,既に,金で人心を操るロビー活動が席巻している。メディアは株取得と広告料で,政治家は政治資金や選挙協力組織で,官僚は天下り先への利益供与で,学者は研究費・情報の供与,政府委員やメディア露出の斡旋で誘導されている。

 コロナワクチンに関するファイザー,モデルナとの契約について,7億回分契約しているとか,リスクや副反応に関する調査研究をしないことを約束させられているという見方がある。しかし政府は,契約条件は秘密だとして公開を拒んでいるし,ワクチン接種後の死亡例について調査を行っていない。こうした状況を批判して,全国有志医師の会が11月下旬に緊急記者会見を開いた(【全国有志医師の会】11月23日緊急記者会見のハイライト)。

 また,コロナワクチン被害者遺族会も厚労省,政治家を交えた会見を開き,同席した福島雅典京大名誉教授が厚労省を厳しく批判した(https://youtu.be/U2yo3G-Y3I0)。

 政府は情報を十分に開示しないままワクチン接種を推奨し続けているので,拝金主義の言いなりになっているのではないかと懸念されるのである。

 ソ連崩壊後,エリツィン大統領時代のロシアが,米国の拝金主義によっていかに簒奪されてきたかを,在米政治アナリストの伊藤貫氏が述べている(伊藤貫「30年間ロシアを弄んできたアメリカ」2022.7.『表現者クライテリオン』。下記は同記事内容を含めた講演「文明の衝突とロシア国家哲学」)。

 拝金主義のなすがままにされていたロシアを立て直すため,プーチン大統領は権威主義化し,クリミア占領とウクライナ侵攻に至ったのである。そして,ウクライナ国民とロシア軍兵士の血によって,兵器の市場ができたことこそ,拝金主義の思う壺である。戦争が長引くほど,彼らの利益は増す。

 また伊藤貫氏は,日本の戦後体制は①憲法,②日米同盟,③核の傘という3つの嘘に騙されていると,米国の多くの安全保障専門家との議論を踏まえて述べている。嘘を前提としない真の安全保障体制を確立した上で同盟関係を結ばないと,日本は守れないと述べている(伊藤貫「日本の戦後体制は虚偽に満ちた擬似独立国家」)。

 日本は,先の大戦に敗戦して以降,米国の影響下に置かれてきた。そして拝金主義資本に,農産物や農薬,種子,医薬品のマーケットを提供して来た。英米仏を始め世界の主要国の農業は,政府が生産補助金を与えて維持している。安全保障の要だからである。また,沿岸漁業も海防のために保護して然るべきである。モンサント(現バイエル傘下)の除草剤ラウンドアップは,発がん性が否定できないという理由でがん患者に賠償を命じる判決が欧米で相次いだ。そのため欧米では売れなくなっていた3年前,日本では逆にラウンドアップ使用基準が緩和された。

 日本で認可された食品添加物は1000数百種あるが,米国では100数十種,英国では数十種という。また,欧米では使用を中止した抗がん剤が,日本ではまだ推奨されているという。日本は,欧米で売れなくなった物の在庫処分場にされているのである。

 拝金主義の言いなりになるなら,権威主義の工作にも弱いことは疑う余地がない。米国による占領政策によって,国家観と先人への敬意・感謝を切除された戦後生まれ世代は,高学歴エリートほど利己主義に走り,世界を蝕む拝金主義と権威主義に買収され易いのではないかと懸念されるのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2794.html)

関連記事

藪内正樹

最新のコラム