世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
第2期トランプ政権と日本の命運:左派・リベラルの欺瞞とマスメディアの敗北
(敬愛大学経済学部 名誉教授)
2024.12.02
米国民主党の欺瞞と偽善,そしてマスメディアの敗北
米国のマスメディアは,ウォール街の意向に沿って,反トランプ一色だった。それでもトランプが激戦州で全勝し,民主党地盤でも得票を伸ばしたのは,800万人に達すると言われる不法移民の流入を容認し,多くの都市で治安を悪化させたバイデン政権の失政が原因だろう。弱者救済を名目に,不法移民から薬物中毒者や軽犯罪者までを保護対象とし,市民権を与え,民主党支持層にしようとした。所得格差が広がる一方の社会で,弱者救済や差別糾弾に熱心な「正しい人」を演じる富裕層や政治家たちが,偽善や欺瞞だという大衆の反発が,SNSを通じて広まったのだと思う。
日本のマスメディアは,基本的に米国主要メディアを翻訳するだけなので,まったく役に立たない。私は,複数のSNSを見比べて判断するようにしている。多くの視聴者を集めているSNS発信者は,視聴者からの情報提供を通じて内容をチェックし,充実させているから,我々の判断力さえしっかりしていれば,一般のマスメディアより質が高いと思う。米国大統領選については,米国のメディアやSNSの情報を集めて紹介する,及川幸久氏の発信が参考になった。及川氏は幸福実現党の幹部だったが,「自分のメンターだった大川隆法氏が亡くなってから幸福実現党を離れた」と説明し,発信内容は信仰にはまったく触れないので,信頼できると思う。
その及川氏が,YouTubeで7時間に及ぶ大統領選開票速報を行なった時,ゲストの一人が「警察官ゆりのアメリカ生活」というYouTube番組を発信している永田有理氏だった。ゆり氏は10代で渡米後,警察学校を卒業してロサンゼルス市の警察官になった。そして,バイデン政権で急増した不法移民の中に,多くの子供を含む人身売買被害者がいる現場を取り締まるうち,様々なトラウマを抱えた被害者をヒーリングする施設を運営するNPO「ラブスペクトラム」を2021年に立ち上げた。ゆり氏は,多くの同志の警察官らと連携して情報を集め,自身のYouTube番組で,人身売買被害者の子供たちが小児性愛や性奴隷の被害者となり,おそらく多くが命を落としているだろうと言っている。米国には想像を超えた邪悪が存在すると同時に,それと戦う人たちもいる。人身売買との戦いを描いた映画が,2023年7月4日に米国で公開された(日本公開は今年9月)映画「サウンド・オブ・フリーダム」である。警察官ゆり氏は,トランプ政権によって,これ以上の子供たち犠牲を防ぐことが出来ると喜んでいた。
米国のアイデンティティ・クライシス
米国の情勢について,歴史的,国際的に俯瞰して分析する貴重な情報源が,ワシントンDC在住の国際政治アナリスト,伊藤貫氏である。保守系YouTubeチャンネルの「チャンネル桜」にしばしば出演するが,11月26日のYouTube番組「虎ノ門ニュース」で,米国の政治情勢を,アイデンティティ・クライシス(どういう国を目指すのか,合意が失われた)と表現した。「文明の衝突」の筆者,サミュエル・ハンチントンは2005年に書いた“Who are we? : The Challenges to America’s National Identity”で,国民の意識が分裂し,2030年代には内戦に至ると予想したと言う。
伊藤氏によれば,1947〜1976年の米国は,企業収益の56%は給与になったが,1980年以降は3%しか給与に充てられていないと言う。このように所得格差が広がり,富裕層と中間層以下との断絶は広がる一方である。トランプは大金持ちのお坊ちゃんだったが,学校が終わると下町に行って,庶民の子たちと喧嘩したり仲直りしたりして育ったと言う。そして伊藤氏は,トランプは米国を19世紀の孤立主義の時代に戻したいのだろうと言う。第2次トランプ政権の主要閣僚は,4年前に比べて小粒な人材が多い。それは,既に社会的成功者になった人たちは,現在の米国に不満がないから,トランプの変革に対して消極的だからだと言う。ロバート・ケネディ・ジュニアも,名門のケネディ家では反逆児だった。イーロン・マスクも単なるEVメーカーではない。
主要閣僚の中で,マルコ・ルビオ国務長官,ピート・ヘグセス国防長官,マイク・ウォルツ安全保障補佐官は,そろって外国への軍事介入に積極派で,初日に「戦争を止めさせる」というトランプの言葉と矛盾するが,伊藤氏は,それくらいの矛盾がトランプの特徴と言う。既得権益層のすべてと敵対して命をかけることを避け,軍産複合体(ネオコン)とは妥協したものと思われる。
米国の既得権益層,ディープステート(DS)とは何か
米国の既得権益層は,ウォール街(国際金融資本),軍産複合体(ネオコン)や,最近力を強めている医療と製薬企業の複合体などがあるが,それぞれが総員220万人の連邦政府の中にも浸透している。政権交代のたび,連邦政府高官の約4000人が政治任用の対象として入れ替わり,その他は資格任用の公務員として雇用が保障されている。第1次トランプ政権は,資格任用公務員の一部は,選挙の洗礼を受けないまま,上に報告する情報・提案を通じて政治任用公務員を操り,自分たちの利権と保身のための構造を築いているとし,任期末の大統領選直前に,資格任用公務員のうち,約5万人を政治任用に切り替える「スケジュールF」を大統領令として発出した。
トランプは,こうした公務員の既得権益層を「ディープステート(DS)」と呼び,行政組織を政権に従わせるため「スケジュールF」は必須とし,2024大統領選の共和党候補を争ったニッキー・ヘイリー,ロン・デサンテス両氏も、これを支持している。バイデン政権によって撤回されたが,第2次トランプ政権は発足直後から実施するだろう。一方,この政策は5万人もの公務員が雇用補償を失うことにより,彼らのパフォーマンスが低下するというリスクが指摘されている。挑戦し,試行錯誤していくしかないと思われる。
米国の問題は,日本も同じ
トランプが解体しようとしている「ディープステート」は,日本では隠れた存在ではなく,霞ヶ関全体が既得権益層そのものである。減税では権限が縮小するから絶対に受け入れず,集めた税金をばら撒くことは,権限や天下り先が増えるので推進する。男女共同参画やLGBTQ理解増進法案など,看板さえ掲げれば実態はなんでも良いという政策が増えている。また,食料やエネルギー,通信,半導体など,安全保障の基盤となる分野でも,外国に利益を吸い取られる仕組みが作られている。もちろん,吸い取られた利益の一部は,政治家には政治献金,官僚には天下り先への利益誘導,学者には研究費という形で還流する。外国人の政治献金は禁止されているが,取引先の日本法人を通せば合法的にできる。それぞれの組織とマスメディアが,既得権益層の一部分になっている点で,日米は同じ問題を抱えている。
トランプ政権に追い出された米国の既得権益層はどこへ行くか
5万人の連邦政府職員の政治任用化などを通じ,第2次トランプ政権は,軍産複合体以外の既得権益構造の排除に着手する。すると,排除された勢力は消えて無くなるだろうか。消えることはなく,利権構造を日本など海外に移転することを警戒しなければならないと思う。
日本は1950年代から,米国の余剰農産物の市場となるため,コメの減反政策と小麦粉製品と畜産品の普及が推進されてきた。発がん性を問題に訴訟が頻発し,欧米で売れなくなった除草剤が,日本では売られ続けている。先進国で,癌による死亡が増え続けているのは日本だけと言われている。政府が認可している食品添加物は,米国133種,ドイツ64種,フランス32種,英国21種に対し,日本は900種(他に600種の香料)である。日本は食品に対する規制が少ない結果,医薬品の消費が多く,輸入額は2020年の3.197兆円(輸出0.836兆円)に対し,ワクチンの輸入が増えた2022年には5.701兆円(輸出1.143兆円)に達した。ちなみに,世界中が新型コロナワクチンの3回目以降の接種を控えた中で,日本だけが接種を続けている。
日本は,欧米で売れなくなったものの在庫処分場になってきたし,円安と不況で格安になった日本企業や社会インフラ,金融資産などは,外国資本の標的になってきた。こうした流れがさらに一層強まることを警戒しなければならない。人身売買も,日本で児童の失踪が増えていることから,最悪を想定して対処を強化すべきである。
「陰謀論」というレッテル張りで口封じされる時代は終わった。脇の甘い,お人好しの政治外交は終えねばならない。さらに,第2期トランプ政権の外交・安保の閣僚が軍事介入積極派になったことから,台湾や朝鮮半島などに関する自主防衛の備えを見直した上で,インテリジェンスと外交の強化も必須である。自分の国は,自分でしか守れないのだ。
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