世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
40年ぶりの物価上昇は本当に一時的なのか
(法政大学 教授)
2022.11.14
2022年9月分のCPI(消費者物価の総合指数)上昇率は前年同月比+3%,コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)は+3%であった。同月のコアコアCPI(生鮮食品およびエネルギーを除く総合指数)の伸びは+1.8%で,このうちサービス全体の物価の伸びは+0.1%であったが,モノ(財)全体の物価の伸びは+3.9%にも達していた。
このような事も関係するのか,いま,テレビや新聞などで,物価上昇に関する話題が取り上げられるケースが増えてきている。これはネット上のデータからも確認できる。例えば,Google Trendでは特定の用語に関する「検索の人気度」を確認できるが,「物価上昇」という用語に関する最近(2022年10月)の「検索の人気度」は,約2年前(2020年5月)の概ね6倍超となっている。これは,物価上昇が国民生活に影響を及ぼし始めており,国民の関心が高まってきている証拠と思われる。
このような状況のなか,総務省は2022年10月28日,東京都区部における10月分の消費者物価指数(CPI)の速報値を公表した。この速報によると,コアCPI(生鮮食品を除く総合指数)は前年同月比+3.4%で,2014年や2019年などの消費税引き上げの影響を除き,1982年6月以降,40年ぶりの大幅な伸びとなった。
しかしながら,現在のところ,日銀は3%超のインフレを一時的な現象と判断し,長期的に平均2%のインフレ率を達成するため,大規模な金融緩和を継続する旨のメッセージを出してる。この判断は本当に適切だろうか。
仮に判断を間違った場合,2021年夏頃までのアメリカFRB(連邦準備制度理事会)と似たミスを日銀も犯す可能性はないか。というのも,現在のアメリカのインフレ率は高く,例えば,2022年9月分の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.2%の上昇となったが,昨年(2021年)5月分のCPI上昇率は4.2%に過ぎなかった。
僅か1年程度で,インフレ率が8%超になり,政治的な問題に浮上してしまった。しかし,当時のアメリカでこの問題を誰も認識していなかったわけではない。テレビや新聞などメディアの報道のとおり,比較的早い段階から,ハーバード大学教授で元財務長官のサマーズ氏などはインフレの加速を警戒する発言をしていた。にもかかわらず,昨年の夏頃まで,FRBのパウエル議長はコロナ禍で拡張した金融緩和を継続し,景気をサポートする旨のメッセージを出し続けていた。
結果的には,サマーズ元財務長官の判断が正しかったわけだが,パウエル議長の当時の判断ミスで利上げが遅れたことから,アメリカのインフレ率は大幅に加速してしまった。アメリカと日本では経済構造が異なり,単純に比較することはできないが,日本でも,日銀が判断を誤ると状況は一変してしまう可能性がある。
2022年11月におけるアメリカの中間選挙ではインフレの抑制が大きな争点になったが,日本でもインフレが加速し,国民の不満が一層高まったとき,日銀や政府はどう対応するのか。日銀が利上げをすれば,財政を直撃する。政治的な摩擦を含め,その時に何が起こるのか,いまからでも頭の体操をしておく必要があるかもしれない。
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