世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2724
世界経済評論IMPACT No.2724

JOB型雇用への移行が本格的に始まった:リスキリングの体制をオランダ方式に学べ

小林 元

(元文京学院大学 客員教授)

2022.10.24

 筆者は2020年1月20日付本欄(No.1603)においてJOB型雇用への移行を予見し,次にように提案した。もう3年近く前のことである。「日本はマネージャークラスの雇用慣行を早急にJOB型(職務給)型に改めないと今世界で繰り広げられている生き残るための大競争から取り残されると強く危惧している」と。それは筆者が40年余り海外事業にたずさわり,海外のビジネスエリート達と苦闘をしてきた末の結論であった。続く2020年8月10日付本欄(No.1839)では筆者は「JOB型への移行を阻害している岩盤(日本的雇用慣行)をコロナが崩し始めた。リモートワークの下で日本的雇用慣行は機能しないことが白日の下に晒されたからである。数年のうちにこのJOB雇用を大多数の日本企業が取り入れる,いや取り入れざるを得ないであろう」とのべた。この幣見に対しいくつかのご批判をいただいた。曰く「日本の雇用慣行は長い間に出来上がったものでそう簡単に変わりはしないよ」等々。

 ところがいま現実にビジネス界で起こっていることは,読者諸兄も新聞紙上で見ておられると思うが,ITのプロが学歴や年功にかかわらず,2〜3千万円の年俸で引き抜かれ,新卒の大学生でもこの分野で専門知識を身に着けたものは一流大学であるか否かに関係なく1千万円で雇用される事例が出てきている。従来新卒の給与は皆一律であるのが当たり前であったが,本人の生み出すであろう生産性によって百万,二百万の差をつけることが珍しくなくなっているという。これはもうまさしくJOB職務給の考え方が現場に急速に浸透してきているということだ。日本もいよいよ年功や学歴でなく実力で,その人が生み出す生産性で給与が決まる世界標準に入りつつあるということである。

 10月初頭の臨時国会での岸田首相の所信演説を聞いていていささか驚いた。「従来の職能給制度からJOB型雇用制度に移行し,そのためには働く者のリスキリングが重要である。これが新しい資本主義の根幹にある」という趣旨の言葉が入っていたのである。政界および官界の諸氏もようやく日本の雇用制度自体の抜本的改革が必要であること気が付いたのだと思う。気が付くのが遅すぎたが今からでも必死になってやれば海外との遅れは取り戻せるチャンスはあると考えている。

 私はかって本欄においてしばしば今世界の産業界に起こっているのはITによる新しい「産業革命」であり,これは「令和維新」とも呼ぶべき大変革(GREAT RESET)であって,日本という国が世界で生き残っていくためには好むと好まざるとにかかわらずこの大変革をやらなければならないのだと述べた。明治維新の時,数百万人の武士階級が「四民平等」の名のもとに俸禄を失った。失業したのである。あるものは官吏になり,商人や農民になった。同じようなことが今起ころうとしているのだ。日本人は急激に大きな変革は出来ないという人がいるが,このようにやり遂げた実績があるのだ。ある予測によると今後5年間でこの大変革により日本国内で4〜5百万人の雇用が失われ,適切な施策がとられればそれと同規模に近い新規雇用が生まれる可能性があるとしている。問題はその新規雇用のほとんどがITの基本的知識を必要としていることである。

 先日NHKのテレビでオランダで行われているリスキリングの制度が詳細に紹介されていた。リスキングのために2年間の新しい技術取得研修期間が従業員に与えられる。まず企業の担当者が一人一人の従業員に面接して現在担当している仕事の内容を聞き,5年後には「現在進行している技術革新の下では貴方のいまの仕事はたとえば100%とか50%なくなります」と伝える。「仕事を続けたいのであれば,あなたの現在の仕事の内容から見て,新しく習得可能な仕事はこれと,これと,これがあります。あなたはどれを選びますか」と。そして従業員が自ら選択し職務研修が行われている。

 こうした具体的なリスキリングのガイダンスが円滑に進むのも北欧では政労使が協調して新しい事態に対処する体制ができており,ITによる(GREAT RESET)の社会に及ぼす重要性を早くから理解し,三者が一体となって力を合わせて取り組んでいるからであろう。重要なことはこうした過程をとうして,一人ひとりの従業員に現実の変革の実態を理解させ,新しい自分の職務を選択させ,自主的に新技術を取得してもらう体制を作り上げることである。

 これからの時代ビジネスに携わる者は,自分の給与を上げようと思ったら,これから本格的に始まるであろう上に述べたようなリスキリングの機会を積極的にとらえて自らの仕事の能力を深化させていくことだ。深化させたら会社にそれを提示し,会社がしかるべき処遇をしてくれればよし。くれなければしかるべき評価をする他社を見つけて転身する。

 これからはそのような時代になる。昔から言われているように「天は自ら助ける者を助ける」のである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2724.html)

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