世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2719
世界経済評論IMPACT No.2719

日中経済のデカップリングについて考える

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2022.10.24

 経済安全保障を進める動きに停滞は見られない。現在の緊張的な国際情勢を受けて,コロナ禍を経て,現在の物価高や円安の現状でも,この動きは止まりそうにない。日本政府も経済安全保障推進法を制定し,着々と具体化している。また,この動きに連動する形で,経済安全保障に関する議論も盛んである。しかし,経済安全保障が何を指すかあまりはっきりとしないため,そこでの議論は多岐にわたり,論点も拡散する傾向にある。よく論じられるのは,分断によるグローバル化の反転や日中,米中関係など地政学的な緊張との関連などである。本コラムでは,現在,よく取り上げられている中国とのデカップリングに焦点を当てる。ここでのデカップリングとは,貿易面で中国との関係を断つというものである。つまり,中国の強権的な行動を踏まえて,中国との貿易関係を弱めて,他の国との貿易関係を強化することである。

 このデカップリングについて,詳しくみていく。確かに,最近の中国の言動には,経済力を背景とした威圧的で強権的な行動が目立ち,中国との貿易関係を他の国との貿易関係で代替しようとする動きは理解できる。しかし,このような政治的な意図通りに経済関係を構築できるかというと,それはまた,別の話である。

 まずは日中貿易の現状を統計で確認する。日本貿易会「日本貿易の現状」の各年版によると,日本から中国への輸出シェアは2018年19.5%,2019年19.1%,2020年22.0%,2021年21.6%である。中国から日本への輸入シェアは,2018年23.2%,2019年23.5%,2020年25.8%,2021年24.1%である。

 これらの数字から,ここ最近,日中貿易に大きな変化はなく,デカップリングは起こっていない。興味深いことは,コロナ感染が本格化した2020年から,日本の対中輸出と輸入シェアは増加傾向が見られ,2021年のシェアは2019年よりも高い。

 さらに,中国の製造業の強さを指摘する識者もいる。日本経済新聞朝刊2022年9月24日付けの記事によると,中国の輸出は堅調に推移しており,中国製造業の競争力は高まっている。さらに,供給網についても,中国メーカーはその優位性を固めているという。

 以上の数字や記事から言えることは,一度貿易パターンや供給網が確立されると,それを覆すことは極めて困難であるということである。つまり,貿易パターンや供給網を支える経済的な要因は政治的な思惑とは別に働くということである。

 日中関係とデカップリングについて言えば,明らかなように,経済的に見て達成不可能である。経済的な要因を無視して,政治的な意図通りに経済関係を構築することはできないのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2719.html)

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