世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
インドは安倍外交を評価し全国で半旗掲揚:経済協力やインド太平洋構想推進に功績
(東北文化学園大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2022.09.26
安倍晋三元首相が凶弾で亡くなった日の翌日7月9日に,インドは全土に半旗を掲揚し弔意を示した。交流を重ねたモディ首相は,My Friend Abe Sanと呼び掛けインドと日本の関係拡大強化だけでなく,インド太平洋構想の推進等グローバルな功績を上げたと哀悼した。同首相だけでなくシン前首相や野党代表も同様な弔意を示し,Times of India紙は最近の日印経済関係の拡大ぶりを示して大きく報道している。日印関係はインドの1991年の経済自由化以降拡大強化が図られてきたが,最長の在任期間を務めた安倍元首相時に大きく進展した。インドの評価について,具体例で考察して見たい。
ODA供与やモディノミクスへの協力
日本とインドは6世紀の仏教伝来以降1500年にわたる交流があり,近代日本にとってインドは綿工業の,第2次大戦後には鉄鋼業の主要な原料輸入先であった。後者では円借款の最初の案件がインドの鉄鉱山開発や鉱石積み出し港建設であり,以降インドは日本の主要なODA供与先となった。最近の案件では高速鉄道や地下鉄,道路等インフラ建設や北東インド開発に広がり,インドの経済開発に協力し成果を上げてきた。それぞれOECD基準に則り透明性のある協力で高い評価が見られる。
日本企業の直接投資はインドが経済自由化に転じた1990年代から増加し,特にモディ政権が誕生した2014年以降本格化している。同政権のモディノミクスはMake in IndiaやSkill Indiaに代表される製造業振興が柱の一つで,製造業では自動車や電機産業への投資が目立つ。自動車産業でいえば,1980 年代初めにインド国営企業と合弁したスズキがトップシェアで増産を続ける中でトヨタ,日産等日系5社が出揃い,技能訓練や人材育成支援と相まって日本のものづくりの強みが移転されつつある。
人材育成支援では,5Sやカイゼン運動に代表される日本式ものづくりを座学と実践で学ぶ学校JIM(Japan-India Institute for Manufacturing)が開校され,評価が高まっている。これは,2016年の日印首脳会議で合意された日印産業競争力パートナーシップに基づき,寄付講座を含めて10年間に3万人の人材育成を目指すものである。JIMはインドに進出しているスズキ,トヨタ通商等によりこれまで全インドで22校開校され,受講生の評判になっている。学校の開設だけでなく大学等への寄付講座も8件を数えており,モディノミクスを実践する協力として存在感を高めている。
インド太平洋協力の推進やクワッド参加
日本のアジア外交は東南アジアのASEAN諸国や中国,朝鮮半島の東アジアに重点が置かれ,インド等南アジアは遠い存在であったように思う。日本企業の直接投資や貿易でも東アジアとの関係が圧倒的に大きかった。そんな中で,アジア太平洋圏にインド洋圏の南アジア,中東,アフリカを加えたインド太平洋構想を打ち出し,構想の実現に安倍元首相の外交が大きな役割を果たしたといえよう。同首相は2007年にインド国会で,また16年にナイロビで開催したアフリカ開発会議第6回TICADで同構想を表明した。
インドはインド洋圏や南アジアの大国で,中国とは国境紛争や大きな貿易赤字を抱え,近隣諸国や海洋への中国の覇権主義を懸念している。そこで,安倍元首相の唱える自由で開かれたアジア太平洋(FOIP)構想に賛意を示し,安全保障政策を中心に日米印豪4か国の戦略対話クワッドに参加することになった。非同盟で戦略的自律主義の外交政策を貫いてきたインドがインド太平洋協力やクワッドに協調するに至ったのは,安倍外交の功績と見られる。アジア太平洋地域諸国は世界人口の6割,世界GDPの過半を占め,ここにアジアの2大民主主義国の日本とインドが果たす役割は今後非常に大きくなろう。
そうした役割には,覇権主義の中国やロシアに対する抑止力とともに,今後に期待のかかるアフリカ開発での日印協力がある。両国は2017年にAAGC(アジアアフリカ成長回廊)構想に合意しており,既に民間企業の協力を進めるプラットフォームが出来ている。この8月末チュニジアで開催された第8回アフリカ開発会議(TICAD)では今後3年間に官民で総額300億ドルの日本の支援が表明され,ビジネスフォーラムでは日本企業・団体の92件のMOU案件が公表された。このうち25件がトヨタグループの通商を担うトヨタ通商案件で,インドで健闘する同社は今後アフリカとのビジネス拡大が期待されよう。
アフリカ開発で日印協力の推進に期待
インドはアフリカとの交流が古くIT分野で強みがあり,日本は先に見たようなものづくりや人材育成に長けている。両国ともアフリカ開発支援に取り組んでおり,今後相互の強みを活かした日印協力の推進が期待されよう。法に則っとり透明性が高く,アフリカのキャパシティ・ビルディングに資する日印協力が進めば,アフリカ開発に貢献するだけでなく問題の多い中国やロシアの協力が見直される可能性も考えられる。例えば,第8回TICADの共同声明を受けてか中国外交部の報道官が従来のウィンウィンといった言い方でなくキャパシティ・ビルディングへの貢献を表明している。今後の展開を注目したいと思う。
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