世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
トランプ政権幹部(共和党員)が暴露した新事実:1.6委員会の公開公聴会結果
(桜美林大学 名誉教授・国際貿易投資研究所 客員研究員)
2022.09.05
前号本コラム(2022年8月29日付No.2659)に続き,公開公聴会の後半を報告する。
第4回(6月21日・火):選挙人名簿を変えろと前代未聞の圧力
ペンス議長が選挙人数の改竄を拒否したためトランプ工作は失敗した。この経緯が第3回公聴会で明らかにされたが,第4回公聴会では,その前段階の選挙人名簿(スレート,slate)の作成過程におけるトランプ工作が明らかにされた。スレートは,州知事が上院議長(つまり副大統領)に提出するが,トランプの顧問弁護士ジュリアーニは300人余の州議会共和党議員に対して,各州で特別議会を開き,トランプ勝利のスレートを作るよう圧力を掛けた(注1)。公聴会では,アリゾナ州のバワーズ下院議長,ジョージア州ラフェンスパーガー州務長官,同長官最高執行責任者スターリング(いずれも共和党員),同州選挙管理委員会の女性職員モスが証言し,彼らに対する執拗で容赦のない行動が明らかにされた。
第5回(6月23日・木):司法省を政治利用
ペンス副大統領(公聴会第3回),州政府(同第4回)に対する圧力行使に加えて,第5回公聴会では,連邦政府機関である司法省に圧力をかけ,政治的に利用する露骨な計画が明らかにされた。その内容は,①司法省に選挙は不正に行われたことを認定させ,②司法省にはジョージア州のバイデン当選を再考させる証拠があり,同州議会に代替選挙人を指名するよう求める書簡を出させる。さらに③トランプの虚偽の主張を公認する特別検察官を司法省に任命させる。公聴会にはトランプへの協力を拒否して辞任したローゼン司法長官代理(バー長官辞任に伴いトランプが任命した最後の司法長官代理)(注2),ドナヒュー副司法長官代理およびエンゲル司法省次官補(役職はいずれも辞任前,すべて共和党員)の3人が揃って証言した。
なお,選挙は奪われたとのトランプの主張に協力した6人の下院議員は政権末期に恩赦を求め,トランプはそれを検討したことも暴露された(注3)。
第6回(6月28日・火):キャシディ・ハッチンソン,驚愕の証言
冒頭1.6正副委員長は,多くの共和党員の協力によってホワイトハウスの行動について新情報を入手したと発言。今回は同じく共和党員で,トランプの最後の大統領首席補佐官マーク・メドウズの補佐役キャシディ・ハッチンソン(26歳)が証言した。ワシントンポストは「8回の公聴会中この証言が最高の新事実を暴露」,ニューヨークタイムズは「爆発的で映画を見るような証言」だと書いた。その衝撃的な証言は次のとおり。
(1)トランプは不正選挙を否定したバー司法長官の発言を知って激怒。ホワイトハウスの食堂の壁に食べていた昼食を叩きつけ,皿は割れケチャップが壁を滴り落ちた。メドウズが皿を投げ付け,テーブルクロスをひきずり落すこともあった。(2)1月6日,シークレットサービスから議事堂行きを阻止されると,トランプは「私は大統領だ」と叫び,手を伸ばしてハンドルに手をかけ車を議事堂に行かせようとした。その時,ホワイトハウス法律顧問パット・シポローネは「そんなことをすれば想像できるあらゆる犯罪で起訴される」と警告した。(3)暴徒は武装していると知らされていた。トランプは武装していてもかまわない。彼らは私を襲うわけではないと言った。(4)閣僚らはトランプを解任するため憲法修正25条の発動を密かに話し合った。(5)メドウズとジュリアー二は恩赦を求めた。トランプは暴徒の恩赦にも関心をもった。
公聴会の冒頭,チェイニー副委員長は1.6委員会がハッチンソンに4回録画付きでインタビューしたことを明かし,彼女の協力と勇気に謝意を表した。なお,トランプは同日,自らのメディアTruce Social にハッチンソンをTotal Phony ,Whackoと罵倒した。
第7回(7月12日・火):トランプ,極右団体に首都への集合を要請
選挙結果を覆す全ての手段を失い,トランプは暴徒に議事堂を襲撃させる直接行動に出た。この経緯がシポローネ法律顧問など多数のホワイトハウス高官のビデオ証言,オースキーパーズ元スポークスマンなどの出席証言などで明らかにされた。「1月6日午前10時ホワイトハウスの南,イリップスで私は重要な演説を行う。多くの群衆が来るから早めに来るように。その後議会に行進する」という,1.6委員会が入手したトランプのツイート案文が公聴会のスクリーンに映し出された。この案文が1月4日には関係団体に伝わり,6日の議会への行進と襲撃の契機となった。
第8回(7月21日・木):187分間のトランプの職務怠慢
今夏最後の公聴会はトンプソン委員長が新型コロナに感染して欠席,チェイニー副委員長が議長を務めた。冒頭,トンプソン委員長がビデオでトランプの悪行を総括し,法に基づき国民に対する説明責任の重要性を訴えた(副委員長の発言は本コラムNo.2635参照)。
公聴会の議論は,暴徒が議事堂を襲撃して退去するまでの187分間における大統領の行動に集中した。トランプは暴徒に鎮静を呼び掛けるよう求める議員,補佐官,娘のイバンカを無視し,執務室の小食堂でフォックスニュースを見続け,司法省やペンタゴンに1回も電話をかけず,マーク・ミリー統合参謀本部長を困惑させた。トランプがイバンカの忠告を容れて暴徒にツイートしたのは午後2時38分。しかし,ツイートの文面はgo homeではなく,stay peaceful であった。1.6委員会の2人の共和党委員の1人であるアダム・キンジンガー(イリノイ州)は,「1月6日のトランプの行動は大統領就任宣誓に対する重大な違反,国家に対する義務違反,職務怠慢,米国史の汚点だ」と糾弾した。事件の翌1月7日,トランプは大統領選挙が終わったとは言わず,「議会が選挙結果を証明したのだ。私はただそう言いたい。いいね」と述べたが,敗北を認めないトランプの本心がこの言葉に込められている。
[注]
- (1)スレートの改竄が求められたのは,接戦州のアリゾナ,ジョージア,ミシガン,ニューメキシコ,ネバダ,ペンシルバニア,ウイスコンシンの7州。ジョージア州ではトランプが勝利するように得票数の操作が求められ,同州は違法な選挙介入でトランプを起訴すると見られている(本コラム2022年5月23日付No.2547参照)。
- (2)トランプはローゼン長官代理を切って親トランプのジェフリー・クラーク司法次官補を昇格させようとしたが,そうすれば司法省に大量の辞任者が出るといわれ諦めたという。
- (3)6人は次の通り。Mo Brooks(AL),Andy Biggo(AZ),Marjorie Taylor Green(GA),Matt Gaetz(FL),Scot Perry(PA),Louie Gohmert(TX)。カッコ内は州名。
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