世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2610
世界経済評論IMPACT No.2610

2022年米国中間選挙,結果を規定する7つの要因

鷲尾友春

(関西学院大学 フェロー)

2022.07.25

 11月8日に投開票を迎える米国中間選挙まで,既に4ヶ月を切った。大統領選挙の中間年に開催されるこの選挙,各州代表で,任期6年の上院議員(100名)の3分の1(35議席)と,人民代表と位置づけられる,任期2年の下院435議席の全てが,民主・共和両党の候補者によって争われる。上院の現有勢力は,50対50の拮抗。下院は,本年3月段階での手許資料で,民主党219,共和党211。これ亦文字どおりの,薄氷の民主党優位。

 現下,米国マスコミや選挙予測機関の多数説は,議会両院のいずれでも,共和党が勝利し,行政府と議会の関係がねじれて,バイデン政権が少数与党化し,大統領は,議会での主要アジェンダ設定能力を失い,更に,議会の場での各種調査主導能力も失う。亦,同時に行なわれる州議会などの選挙で,民主党が敗れることがあれば,妊娠中絶や選挙手段規制など,幾つかの州が進めている各種規制への抑制手段も失う。民主党にとって,そんな悪夢のシナリオ。

 こうした状況が,何故現出したのか,11月の選挙を測る尺度から総括してみると,概ね,以下の7点に集約されるだろう。

  • ①「過ぎたるは及ばざると同じ」・・・バイデン政権の二つの立法成果(米国救済法とインフラ投資法)が,米国経済に過度な購買力を注入してしまい,現在の超インフレの基となった。コロナ対策の要素もあったとはいえ,過度な購買力の市中散布だった,と言われても仕方あるまい。直近の米国世論調査を観ても,インフレの原因としては,「大企業の競争欠如への指摘が54%だったのに,政権の政策運営の所為」との答えが62%を占めている。
  • ②「年寄りの冷や水」・・・バイデン大統領(78歳)を始め,トランプ前大統領(76歳),民主党ペロシ下院議長(80歳)、上院共和党マコーネル院内総務(80歳),或は上院民主党の反逆児ウエスト・バージニアのマンチン上院議員(74歳)など,表に出てくる政治家は超高齢者揃い。米国政界に世代交代が近づいている。共和党内トランプ支持者たちの反抗も,こうした古手政治家たちがのさばる政治風土とは無縁ではあるまい。
  • ③「It’s Economy, Stupid(所詮は経済だよ)」・・・。冷戦を終わらせ,且つ第一次湾岸戦争で勝った,共和党ブッシュ大統領(父親)を,1992年大統領選挙で,民主党クリントン候補が破った時のスローガンがこれ。このスローガン,2022年中間選挙でも妥当しそう。
  • ④「争点設定能力の欠如」・・・議会民主党側の結束不足で,バイデン大統領の打ち出すアジェンダが実現しない。例えば,上記マンチン上院議員が,折々に,民主党上院指導部の意向に反する姿勢を取り続けていられる(直近ではバイデン大統領が売りの一つにしていたビルド・バック・ベター法案を葬った)のも,自らの一票が,キャスティング・ボート化しているため。同議員の選挙区が,石炭産出州であり,民主党リベラル派の進める温暖化対策のための各種規制条項などに,己の選挙区の利害が合わないのだ。同様な事情は,共和党支持有権者の多い選挙区から選出されている,民主党議員の多くにも適用される。彼らは,中絶禁止などには,選出基盤の特質故,中々賛同しにくいのだ。
  • ⑤「選挙区調整」・・・2020年に実施された人口センサスの結果が,本年の連邦議会下院の選挙区調整に用いられる。現在までの処,調整を余技なくされた州の多くで,線引きは既に完了している。結果は,民主・共和双方の痛み分け(もっとも,選挙区調整の余波を大きく受ける議員の数は,共和党よりは,民主党の方が多そうだが・・・)。当該州選出の両党の下院議員たちは,結局,己の基盤が固まるような線引きで,合意し合ったようだ。2018年,2020年,それぞれの下院選で両党候補が激しく競い合った選挙区の数が,2022年には,大きく減少するからだ。政治の現実とはそういうものだろう。
  • ⑥「各自・独自の主張での,個人戦」・・・バイデン大統領への支持率が低下を続け,直近では39%台にまで下がっている。となると,各議員たちは,大統領の人気を当てに出来ない。それでも議会民主党は,中絶違憲の判決を下した連邦最高裁を敵に仕立てての,中絶合法化への新たな取り組みを前面に,女性票を確保しようとし,亦,大企業を槍玉に挙げての,全国的な争点造りに励もうとしているようだが,中々思ったとおりには行かないだろう。そして,もしそうなら,結局は,民主党の各候補は,各自独自の争点で,選挙を戦わざるをえなくなる。今回中間選挙が,国を挙げての争点ではなく,地域毎の利害を争う選挙になる可能性が高い,と想定される所以である。上院選で、共和党候補たちの失言などをNY TIMES紙があげつらっているのも,選挙が個人戦的な色彩を強めている故なのではあるまいか・・・。いずれにせよ,2018年の中間選挙では,当時のトランプ大統領は,「中間選挙は早晩,現職大統領たる自分への信任選挙になる」と公言,自らと共和党の立場を一体化させた選挙運動を行ない,それが亦,共和党内でのトランプ基盤を固めることに資したのだが,バイデン大統領の場合は,むしろ逆に,中間選挙を自らの政権への信任投票にさせないよう,最新の気配りをすることになるだろう。
  • ⑦「トランプ・ファクターをどう見るか」・・・NY紙は,「共和党内で,トランプに反対する場合,そのコストも相当なものになる」と指摘,ユーラシア・グループなども,「オハイオやアリゾナなどでは,トランプ推薦候補が勝ち残り,亦,彼の推薦は,候補者にとっては,少なくとも負債ではなく,選挙戦勝利へのプラス要因であることは間違いないとし,併せて,トランプの主張していた通商や移民問題への立場には共鳴する支持者が多いので,彼の影響力は依然強い」と纏めている。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2610.html)

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