世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2586
世界経済評論IMPACT No.2586

日中韓経済協力と2022年における経済政策

韓 葵花

(千葉大学 特別研究員)

2022.07.04

 COVID-19の蔓延,ロシアのウクライナ侵攻などの影響で,世界経済をはじめ各国の経済回復が遅くなっている最中,日中韓はそれぞれ経済政策を発表し,不況からの離脱を目指している。

 中国政府は「貿易の安定と質の向上を推進することに関する国務院の意見(国务院办公厅关于推动外贸保稳提质的意见)」を2022年5月26日付けで発表した。輸出入企業が直面する課題に対応できるように支援をし,輸出入の安定と質の向上という目標を達成するために,経済の安定と産業チェーン・サプライチェーンの安定化のための提案である。同提案は13項目であり,項目ごとに地方政府や政府の直属の部門(例えば商務部,交通運輸部,海関総署,国家鉄路局など)を明示し,以下の点を指示している。①輸出入企業の生産,運営の保証を強化する。②貿易財の円滑な輸送を促進する。③海運物流のサービスを増加し,貿易の機能を安定させる。④国境を越えた電子商取引を促進し,質と効率の向上を加速させる。⑤輸出信用保険の支援を強化する。⑥輸出入融資の支援を強化する。⑦中小零細の輸出入企業への金融支援を一層強化する。⑧輸出入企業における為替リスクに対処する能力の向上を加速させる。⑨国境を越えた人民元の決済環境を引き続き最適化する。⑩企業がオンラインチャネルをうまく利用し貿易の取引が拡大することを促す。⑪革新的・グリーン・高付加価値の製品が国際市場を開拓することを奨励する。⑫輸入を強化しプラットフォームの育成と構築を促進する。⑬加工貿易の安定した発展を支援する。

 一方,韓国政府は「新政府経済政策の方向性(새정부 경제정책방향)」を2022年6月16日付けで発表した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)新政権は2022年5月10日に発足したが,尹政権の経済政策は5つの章で構成されている。同文書の第4章では,国際協力として経済安全保障と安定したサプライチェーン構築のために多国間協力体制を強化する,とした。IPEF(インド太平洋経済枠組み),CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)などの多国間経済ブロック化の議論に積極的に参加し,核心原材料の供給国と貿易・カスタマイズ支援の拡大などネットワークを構築するとしている。IPEFについては,2022年6月11日にフランス・パリで貿易分野に関する非公式閣僚級会合が開催され,米国・日本・韓国・豪州・ニュージーランド・フィジー・インドとASEANの7カ国(ブルネイ・インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ・ベトナム)が参加している。CPTPPは,周知のとおり2018年3月8日にTPPから離脱した米国以外の11カ国(日本・豪州・ブルネイ・カナダ・チリ・マレーシア・メキシコ・ニュージーランド・ベル―・シンガポール・ベトナム)で署名がなされ,日本でも発効済みである。当時韓国も日本と同様にTPPへの参加が大きな議論となったが,韓国では国内の反対が大きく加盟には至っていない。CPTPPへの加盟は韓国のみならず中国と台湾が2021年9月に申請している。実現すれば,日中韓はRCEP(地域的な包括的経済連携協定)に続き,メガFTAへの第2回目の経済協力となる。

 日本においては,岸田政権が経済政策として「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」と「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」が2022年6月7日に閣議決定された。首相官邸のHP報道資料によると,成長戦略として,「経済安全保障推進法」(2022年5月11日成立)により,①サプライチェーン強靭化への支援,②電力,通信,金融などの基幹インフラにおける重要な機器・システムの事前安全性審査制度,③先端的な重要技術の研究開発推進,④安全保障上機微な発明の特許非公開制度など整備することとなっている。

 日中韓3カ国の経済政策は必ずしも同じ方向を目指しているようには見えないが,経済回復・安定したサプライチェーンの構築は共通している。今年2022年は日中国交正常化50周年,中韓国交正常化30周年になる。この節目の年が日中韓経済連携にプラスになることを期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2586.html)

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