世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
サプライチェーン再構築とウクライナ戦争は東アジアの均衡ある発展を促がす
((一財)日中経済協会 元理事長)
2022.06.27
1.「東昇西降」は遥かに遠のいた
昨年の中国はコロナ制圧に一時的に成功して8.1%もの高成長を達成し,「東昇西降」(アメリカを追い抜く)と自信満々だった。しかし経済は3月から酷く落ち込んだ。ロックダウンで,外食産業は3月から前年の約2割減の状態が続いている。自動車,半導体などの生産実績も3月から前年割れが続く。公務員,会社員の給与半減報道も出始め,青年層(16~24歳)の5月の失業率は18.4%で5人に1人は失業だ。西側なら政権交代であろう。
他方アメリカ経済は好調のうえインフレで引き締めが必要なほどであり,成長率は1976年以降で初めて中国を上回る可能性があると言われる。米中の状況は完全に逆転した。中国はなお以下の途を続け,好転は難しそうだ。
経済では,サプライチェーン(供給網)を痛打したロックダウンを継続する。半導体不足に加えて上海のロックダウンは,中国の経済社会だけでなく世界の産業と経済に打撃を与えた。李克強総理は景気対策と供給網安定に注力しているが,ロックダウン政策継続ではリスクはなくなりそうもない。
ロシアとの関係では,友好を強め,西側同志国の制裁圧力を受けている。中国はウクライナ侵攻について国連の即時撤退決議案に棄権し,6月には中ロ首脳会談で連携を強化して,国連憲章違反・食料危機原因国のロシアと同類だと低評価されている。バイデン大統領は習主席に対して,ロシアを支援しないよう直接警告した。これに反すれば米国など多数の西側同志国の対中制裁が始まるが,その迅速さと強力さはすでにロシア制裁で実証されている。従来から中国は米国の様々な規制と制裁を受けており,制裁圧力は倍加した。
東アジアでは,積極的に戦争準備を進め,西側同志国の防衛準備を促すに至った。米国は台湾の独立を支持しないと再三表明したが,中国は軍事的威嚇を増大している。バイデン大統領滞日中には,意図的に日本周辺でロシア空・海軍と合同示威行動を行った。「ウクライナは明日の東アジア(台湾)」が常識になった。この状況にEUとくにドイツも,中国対決姿勢に転じた。6月末のNATO首脳会議は,中国の潜在的挑戦を初めて取り上げる。中国が武力行使すれば世界大戦になるが,そうでなくとも西側全先進国と軍事的対決という険しい状況が明るい国内効果を生むことはない。
2.史上最強のロシア制裁網が実施された
ロシアに対して西側の有志国は,金融制裁はじめ様々の制裁を科している。輸出に限ってみても,米国は広範な製品・技術の輸出禁止だけでなく,米国製の半導体製造装置や工作機械などを使って製造したものをロシアに輸出することも禁止した。違反すれば,どの国の企業でも制裁される。英仏独日豪など37同志国連合と台湾も様々な措置を実施し,規制に挑戦する企業は見られない。制裁下のウクライナ戦争は,消耗戦となってロシアの人命と国力を消耗させているが,豊かな資源と大国化を願う世論の支持で長期化は必至だ。しかも多数の連行ウクライナ人のロシア抑留は,事態をさらに悪化させる。
3.東アジアの均衡ある発展が期待される
米中の貿易は規制分野以外では増大しており,5月の中国の対米輸出は15.8%増,対米輸入は21.2%増を記録した。しかし現在の2つの変化は,徐々に実態に反映されると思われる。
中国の供給網の,近隣への分散と再構築が始まっている。5月の「アジアの未来」東京セミナーでは,マレーシア首相はじめ多くの政治指導者が供給網問題の深刻さを訴えた。バイデン米大統領は5月に東京でIPEF(インド太平洋経済枠組)発足を宣言し,日米印韓など13国が供給網強靭化などの協力を始めた。すでに自国回帰や「フレンド・ショアリング」の動きが現れて,ベトナムでは対米輸出が増加し経済も発展している。同様の現象がインド,日本を含む各地で起きている。
また,日本企業の経営戦略も変化している。円高に苦しんで巨大な中国に立地を進めてきたが,人件費上昇とロックダウンへの対応が急務となった。円安が長期化する条件も揃ってきた。情報化・AI革命時代を迎えて,基本的な要素が日本に有利に変化した。日本が西側同志国のアジアの中心であることも,信頼を高めている。日本企業の変化は,東アジアの生産と物流に変化を起こす可能性を秘めている。
最後に,日本と中国との対話がますます重要になった。中国の対外姿勢の変化は,当面期待できそうもない。しかし,台湾について国交正常化時の共同声明を慎重に守りながら,東アジアの平和と発展のために中国の武力行使の抑止だけでなく,対話を深めていく工夫が期待される。
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